この記事でわかること
- 経営事項審査(経審)とはどのようなものかを知ることができる
- 経審を受けることのメリットとデメリットを知ることができる
- 経審で点数を上げるために何をすればいいのかがわかる
建設業などを営む経営者の方は、経審(ケイシン)という言葉を聞いたことがあるでしょう。
経審とは、正式には「経営事項審査」といい、会社の経営状態や財務状況などを数値化するために受ける審査です。
すべての会社が経審を受けなければならないわけではありませんが、必要不可欠な場合もあります。
経審を受けるメリットとデメリット、そして点数を上げるためにできることを確認していきましょう。
経営事項審査(経審)とは
経営事項審査とは、会社の審査基準日(決算日)における経営状態や財務状況などを数値化する審査のことです。
経営事項審査のことを略して経審と呼び、公共工事の入札に参加する会社は必ず受けなければなりません。
経審を受けた建設業者は、その審査結果として総合評定値通知書を取得します。
この総合評定値通知書は、入札に参加する場合に提出を求められるため、事前に経審を受けておく必要があります。
なお、総合評定値通知書には、審査の結果が評価点として記載されています。
その結果をもとに、公共工事の発注者が建設業者をランク付けすることとなります。
経審を受けるメリット・デメリット
経審は、すべての建設業者に対して義務付けられているものではありません。
経審を受けることにはどのようなメリットがあり、またデメリットには何があるのか確認します。
経審を受けるメリット
経審を受けるメリットとして、まず公共工事の入札に参加できることがあげられます。
公共工事は、民間の工事に比べて規模が大きく、代金の支払いが滞る心配もありません。
そのため、公共工事を受注することができれば、会社の規模拡大が期待できます。
また、公共工事を請け負った場合に限らず、経審を受けて入札に参加することは、自社のアピールにつながります。
経審で一定の点数を取っていると、民間の工事の受注の可能性も高まり、大きなビジネスチャンスが生まれるきっかけになります。
さらに、自社の財務に関するデータを、客観的に分析できることもメリットです。
自社の経営状況を客観的に見つめ直すことは簡単ではなく、なかなか実現できません。
しかし、経審を受けると、第三者機関により経営や財務に関する数値の審査を受けることができます。
これにより、自社の状況をより冷静に見つめ直すことが可能になります。
経審を受けるデメリット
経審を受けることには、デメリットもあります。
それは、審査を受けるのに費用がかかることです。
経審の手数料には、経営状況分析申請、経営規模等評価申請、総合評定値の3つの手数料がかかります。
それぞれの手数料ごとに計算方法が定められており、合計すると2万円~3万円程度になります。
メリットに比べれば、その手数料は安いものといえるかもしれませんが、念のため注意しておきましょう。
また、審査を受けるまでの手続きが煩雑であることもデメリットのひとつです。
詳しくは次の章で説明します。
経審を受ける流れ・必要書類
経審を受けるにあたっては、その手続きの流れが非常に重要です。
ここでは、その流れと必要な書類について解説していきます。
決算報告書を作成する
会社の定めた決算日にあわせて決算を行い、決算報告書などの財務諸表を作成します。
経審を受けても受けなくても、この決算報告書の作成は必ず行わなければなりません。
事業年度終了届を提出する
建設業者は決算を終えたら、事業年度終了届(決算変更届)を都道府県の担当窓口に提出します。
また、国土交通大臣に建設業許可を申請している建設業者は、その管轄の地方整備局などに提出します。
事業年度終了届も、経審を受けるか否かに関わらず、毎年必要な手続きとなっています。
経営状況分析の申請を行う
経審の審査の1つである経営状況分析は、経営状況分析機関で行われます。
経審を受けるために、審査基準日直前1年分の財務諸表や減価償却実施額を確認できる書類を提出します。
またあわせて、建設業許可通知書の写しといった書類も必要になります。
初めて経営状況分析の申請を行う場合は、3年分の財務諸表が必要になるので、前もって準備しておきましょう。
経営規模等評価の申請を行う
経営状況分析を申請し、経営状況分析結果通知書を取得したら、次に経営規模等評価申請を行います。
申請時には、下記の書類が必要になります。
- 経営規模等評価申請書・総合評定値請求書
- 工事種類別完成工事高/工事種類別元請完成工事高
- その他の審査項目
- 技術職員名簿
- 経営状況分析結果通知書(原本)
- 審査手数料印紙貼付書
- 外国子会社がある場合は該当の書類
- 委任状(代理申請時のみ)
また、これらの申請書類の他、消費税申告書の控えや添付書類の写しなどが確認書類として必要になります。
総合評定値通知書を取得する
経営状況分析と経営規模等評価申請の結果をまとめたものが、総合評定値となります。
両方の結果をまとめた総合評定値通知書は、経営規模等評価申請の後、1ヶ月程度で送付されます。
経審の有効期限
経審を受けて発行された総合評定値通知書には、有効期限が定められています。
経審を受けた審査基準日、つまり決算日から1年7ヶ月が有効期限となります。
国や地方公共団体、独立行政法人などの入札に参加し、あるいは仕事を請け負うには、有効な総合評定値通知書が必要となります。
そのため、毎年のように公共工事の請負をしている事業者は、毎年経審を受けなければなりません。
なお、総合評定値通知書の有効期限を、通知書が届いてから1年7ヶ月と間違えやすいため、注意しましょう。
経審の点数を上げるコツ
経審の点数を上げるほど評定値はよくなり、公共工事を受注する際に有利になります。
そこで、どのようにすれば経審の点数を上げることができるのか、解説していきます。
審査項目をしっかり分析する
経審は、「経営規模」「経営状況」「技術力」「その他審査項目(社会性等)」の4項目に分けて審査が行われます。
そこで、経審の審査項目は決められているので、その内容をしっかり分析し、よい評価を得られるようにします。
中でも、「その他審査項目」は最高237点ですが、最高点になると総合評点を求める際には、計算式により1,966点が加算されます。
逆に、「その他審査項目」の点数が低いと、総合評点への加算が少なくなるばかりか、マイナスになってしまうこともあります。
そのため、「その他審査項目」でいかに高い点数を獲得するかが、総合評点を高くするポイントとなります。
「その他審査項目」には、様々な審査項目が含まれます。
たとえば、労働福祉の状況として、健康保険や年金保険、雇用保険への加入状況が問われます。
これらに加入していない場合はマイナス評価となり、最大120点の減点となります。
これらの社会保険に加入することで、従業員の労働環境の改善と経審の点数アップの両方をねらうことができます。
売上の計算方法について効果的な選択をする
建設業の売上高は、基本的に完成工事高により算出します。
ただ、完成工事高では工事が完了しないと売上が計上できず、年による差が大きくなるでしょう。
そこで、経審を受ける際は、完成工事高で計算された売上高について、2年または3年の平均を用いることとされています。
どちらを選択するかは、建設業者の選択に委ねられているため、計算して効果的な方で経審を受けましょう。
完成工事高が高いほど加点が大きくなり、点数アップにつながるのは間違いありません。
手元の資金を増やす
事業運営にあたって資金繰りをよくすることは、収益を確保することと同じように重要なことです。
手元の資金を増やすと、経審の審査においても点数アップにつながるので、積極的に手元資金の比率を高める努力をしましょう。
手元資金の比率を高めるには、売上高の回収のタイミングを早める、支払いの時期を遅らせるといったことが考えられます。
ただ、これらは自社の努力だけでは改善できないものですし、かえって取引関係を悪化させてしまう可能性もあります。
そこで、無駄な支出の削減や役員報酬の見直し、あるいは固定資産の購入や計上方法について検討しましょう。
まとめ
経審は、公共工事の受注を目指す建設業者にとっては、非常に重要なものです。
経審をスムーズに受けられるように、まずは決算の段階から準備を進めていきましょう。
公共工事の入札には経審は必要不可欠な上、その他の取引先からも経審の点数を聞かれる可能性はあるので、毎年受けるといいでしょう。
なお、経審の点数を上げるコツもあるので、日頃からこれらを意識した経営を行うようにしましょう。