この記事でわかること
- 建設業許可要件の専任技術者とは
- 専任技術者に必要な実務経験の詳細
- 実務経験10年の証明方法
建設業許可の取得要件として、専任技術者の配置が義務付けられています。
専任技術者と認められるには資格や専門学科の卒業歴が必要ですが、これらがない場合でも10年以上の実務経験があれば申請できます。
しかし「10年以上の実務経験をどのように証明すればいいかわからない」という人もいるでしょう。
今回は、建設業許可で必要な専任技術者について、10年の実務経験の考え方やその証明方法を解説します。
建設業許可における専任技術者とは
専任技術者の配置は、建設業許可の必須要件です。
営業所ごとに配置が義務付けられており、常勤であることが条件です。
他企業や他営業所など、複数カ所を1人で担うことはできません。
そのため申請では、常勤性とともに専任性も証明する必要があります。
専任技術者の要件は一般建設業と特定建設業で異なり、以下のように定められています。
許可の種類 | 概要 | 専任技術者の要件 |
---|---|---|
一般建設業 | 下記以外の場合 | ・指定の国家資格所有 ・指定学科修了+実務経験(3年または5年) ・10年以上の実務経験 |
特定建設業 | 発注者から直接請け負った工事について、1件につき4500万円以上で下請け契約を結ぶ場合 | ・指定の国家資格所有 ・一般建設業の技術者要件を満たした上で、指導監督的経験2年以上 |
国家資格を所有している場合は、実務経験がなくとも専任技術者として申請できます。
それ以外の場合は、実務経験が必要です。
一般建設業において、指定の学科を修了している場合に必要な実務経験は以下の通りです。
- 高校または専門学校卒業から5年以上
- 大学卒業から3年以上
専門学校で専門士もしくは高度専門士を修了している場合は、卒業後3年の実務経験で足ります。
資格や指定学科の卒業歴がない場合は、建設業許可で指定する業種での実務経験10年が必要です。
特定建設業においては、一般建設業の要件いずれかを満たしていることに加え、特定建設業工事で2年以上、指導監督的な経験を有することが条件です。
指導監督的な経験とは、現場主任や現場監督のような、工事の設計・施工において技術面を総合的に指導監督することを言います。
専任技術者の職務内容は、以下のようなものです。
- 見積書の作成
- 発注内容に基づき発注者と工事内容を協議する
- 契約の締結 など
工事の技術的、専門的な面を考慮して契約内容を検討するため、一定の知識や経験が必要です。
そのため専任技術者の要件に、国家資格や実務経験が求められています。
建設業許可における10年の実務経験・数え方とは
資格や卒業歴があれば、3~5年の実務経験で専任技術者になることができます。
しかし資格保有者は数が限られ、人手不足の建設業界で採用することは至難の業です。
そのため一般的には、10年の実務経験をもって申請する場合が多いでしょう。
ここでは実務経験の定義や、経験期間の計算方法について解説します。
建設業許可における実務経験とは
専任技術者になるための実務経験とは、建設業における施行経験のことを言います。
役職などは関係なく、現場監督、職人、見習いなど、どんな経験でも認められます。
たとえば未経験から建設業を始め、現場監督まで昇進した場合、すべて実務経験としてカウントできます。
また現場作業だけでなく、建築士や土木設計士など、設計技術者としての経験も実務経験とされます。
ただし工事が始まる前の準備や雑務は、実務経験にはなりません。
業種と実務経験の関係
実務経験としてカウントするには、経験してきた作業と建設業許可の工事の業種が一致している必要があります。
たとえば大工工事の建設業許可の場合、専任技術者になるためには大工工事で10年の実務経験が必要です。
仮に塗装工事で3年、大工工事で7年の経験があるとします。
この場合、業種の異なる工事は経験期間が合算できないため、実務経験10年とはならず、専任技術者とは認められません。
建設業としての経験ではなく、あくまでも工事業種ごとに10年の経験が必要ということです。
また、塗装工事と大工工事どちらも並行して10年経験がある場合、どちらか一方でしか専任技術者として認められません。
すでに塗装工事で専任技術者として申請している場合、大工工事で申請するためには、また別で10年の実務経験が必要ということになります(一部緩和要件あり)。
実務経験期間の計算方法
より具体的な実務経験期間のカウントの方法は、一般的には以下の通りです。
- 工事と工事の間隔が12カ月未満であれば、連続した実務経験としてカウントする
- 年間で代表する工事名1件を申請し、1年間の実務経験としてカウントする
- 工事の工期に応じて経験をカウントする
工期に応じたカウント方法は、工期=実務経験となるため、10年間の経験を忠実に積み上げていくことになり、ハードルが高くなります。
なお、実際のカウント方法は、自治体により独自ルールで運用されています。
そのため、どの方法で積み上げていくかは、提出先の自治体によって異なります。
申請する際は、窓口でよく確認しましょう。
10年の実務経験の証明方法
ここからは、10年の実務経験の証明方法を解説します。
建設業許可申請で一番つまずきやすいポイントと言えるため、しっかり準備していきましょう。
国家資格や専門士などの経歴は合格証、資格証で容易に証明することができます。
一方で実務経験は、工事履歴や在籍証明などの書面を集めて立証しなくてはなりません。
実務経験を証明する資料は、主に以下のようなものが必要です。
- 契約書
- 発注書
- 請求書
- 通帳、入出金明細 など
では、どのように証明していくのか見ていきましょう。
契約書の有無を確認する
まずは契約書がないか確認しましょう。
工期など工事の詳細が確認できるため、契約書は一番証明しやすい書類です。
しかし規模の小さな工事や、昔から付き合いのある企業同士の工事などは、契約書を交わしていないケースも珍しくありません。
そのような場合でも、他の資料で証明できるため、あきらめる必要はありません。
ただし、建設業許可取得後の定期的な報告や、新たに許可を申請する際など、工事経歴の証明が必要になる場面は少なくありません。
工事の規模に関わらず、契約書や注文書などの書類を残しておくといいでしょう。
請求書+通帳でも証明できる
もし契約書を交わしていない場合や、過去のものが残っていない場合は、請求書や発注書など工事の内容を確認できる資料を探しましょう。
工事があった事実を証明できる資料であれば、認められる可能性は十分にあります。
また、同時に入出金の記録を準備しましょう。
請求書や発注書などを提出する場合は、入出金明細とセットにすることが重要です。
明細は、通帳の写しで証明することができます。
もし通帳が用意できない場合は、金融機関に取引明細を発行してもらいましょう。
会社に資料がない場合は、発注元や税理士などにも確認します。
特に規模の大きな会社から請け負った案件は、発注元に資料が残っている可能性が高いです。
また、入出金などお金に関することは税理士、もしくは経理担当にも確認してみましょう。
転職している場合は要注意
過去に在籍していた会社での実務経験を証明する場合は、すでに退職した企業の協力が必要なため、少し注意が必要です。
前職の経験は、まず自分が携わった工事の履歴を発行してもらえるか確認することから始めます。
加えて建設会社に在籍していたことの証明も必要です。
過去に在籍していた会社に対し、職歴証明書(在籍証明書)の発行を依頼することは可能です。
しかし発行義務は退職から2年間とされています。
それ以前に退職している場合は、発行してもらえない可能性があります。
その場合は、年金被保険者記録照会回答票で証明しましょう。
日本年金機構が発行しているもので、年金加入履歴から会社名も確認できます。
過去に喧嘩別れをしている場合や、すでに廃業しているなどは資料集めが難しくなります。
一つずつ地道に確認していきましょう。
専任技術者の注意点
専任技術者は、建設業許可の要ともいえる重要な役割です。
ここでは、専任技術者の申請をする場合の注意点を解説します。
在籍証明
他社と掛け持ちをしていないか、本当に在籍をしているかなど、専従性を証明する必要があります。
他社や他営業所との兼務は認められていないため、雇用保険被保険者証や確定申告書などを使って証明します。
また、注意する点として、名義貸しは違法行為です。
専任技術者になれる人がいないからと、名前だけ借りて申請することは虚偽申請に該当し、6カ月以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性があります。
建設業許可の取り消し要件にもあたるため、絶対にしてはいけません。
常勤性
専任技術者は社内に在籍していることに加え、常勤性も求められます。
常勤性の証明として健康保険証、確定申告書、住民税通知書などにより、営業所の住所と本人の自宅住所を確認して審査されます。
一般的に通勤時間2時間圏内が妥当とされており、あまりに遠いと通勤自体が困難とみなされ、不許可となる可能性があるため、注意しましょう。
なお、専任技術者のテレワークについては、令和3年にガイドラインが改正され、認められるようになりました。
ただし、以下の定められた要件を満たしていることが必要です。
- メールの送受信と確認ができること
- 契約書や図面等の確認ができること
- 常に連絡が取れる状態であること
また、必要に応じて対面で対応するために専任性も求められるため、通常通勤できる範囲でないと認められません。
立ち入り調査が入る可能性もあり、実際にテレワークで申請する場合は、役所との事前確認が重要になるでしょう。
退職や変更
専任技術者の不在は、建設業許可要件に反するため、認められません。
退職や長期療養など何らかの理由で不在になった場合は、速やかに新しく専任技術者を立てる必要があります。
複数カ所を兼任することはできないため、新しく営業所を構える場合も、新たな技術者が必要です。
専任技術者に変更があった場合は、変更の日から2週間以内に届出が必要です。
届出を怠った場合、6カ月以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性があります。
また、届出ができていないと経営事項審査の申請や建設業許可更新申請ができません。
必ず期限内に届出を行いましょう。
ちなみに、結婚等による氏名の変更も届け出ておかなければ、本人不在とみなされるため、注意が必要です。
まとめ
専任技術者の設置は、建設業許可の必須要件です。
10年の実務経験をもって申請する場合、実務経験の証明が許可申請のカギになります。
工事経歴を証明する資料は契約書に限りません。
請求書や発注書、明細など工事に関係する書類を集め、総合的に審査してもらうことができます。
ただし、申請できる書類や、10年の積み上げ方法は申請する役所ごとに独自ルールがあります。
まずは申請窓口で相談することから始めていきましょう。