この記事でわかること
- 建設業の個人事業主が法人化するメリット・デメリット
- 建設業の個人事業主が法人化する注意点
- 建設業の個人事業主が法人化する費用
個人事業主の売上げが増加し、所得税などの負担が重くなると、法人化した方がよいケースもあります。
法人は個人事業主に比べて経費の範囲が広く、節税のメリットも受けやすくなっています。
法人化には初期費用やランニングコストもかかるため、デメリットや注意点も理解しておくとよいでしょう。
今回は、建設業などの個人事業主が法人化するケースについて、メリット・デメリットや初期費用などをわかりやすく解説します。
- 目次
- 【法人化で節税できるのか】建設業の個人事業主が法人化するメリット
- 建設業の個人事業主が法人化するデメリット
- 建設業の個人事業主が法人化する際の注意点
- 建設業の個人事業主が法人化する流れ
- 建設業の個人事業主の法人化に関するよくある質問
- まとめ
【法人化で節税できるのか】建設業の個人事業主が法人化するメリット
建設業の個人事業主が法人化すると、以下のメリットがあります。
- 経営者本人に支払った給与も経費で落ちる
- 所得が増えても法人税の税率は上がらない
それぞれのメリットについて詳しく解説します。
経営者本人に支払った給与も経費で落ちる
個人事業主の場合、妻が経理事務を手伝っているケースでは、給料は青色事業専従者として税務上の損金と認められます。
個人事業主は自分自身に給料を支払えません。法人化した場合、経営者に役員報酬を払い、一定条件の下で税務上の損金として認められます。
役員報酬を受け取った経営者自身は所得税を納税しなければなりませんが、給与所得控除の適用で納税額を抑えられます。
ただし、役員報酬は定期同額給与にあたり、毎月同じ額を支払わないと税務上損金に算入できません。
冠婚葬祭費などの定期外出費は「役員賞与」とみなされ、税務上の損金に算入できません。
税務署に指摘されないためには、取締役会または株主総会で毎月の役員報酬額を決議し、議事録を残しておきましょう。
税務調査で不正が発覚すると、通常の税金以外に過少申告加算税、悪質だとみなされた場合は重加算税まで徴収されます。
所得が増えても法人税の税率は上がらない
所得税は、所得が増えるほど税率が上がる累進課税を採用しています。
所得税の税率は、5〜45%です。
一方で中小企業が納める法人税は、一定税率を採用しています。
資本金1億円以下の中小企業の場合の法人税は、以下のように2段階で課税されるシステムが採用されています。
- 800万円以下:15%
- 800万円超:23.2%
<シミュレーション 事業所得2,000万円>
事業所得 | 2,000万円 |
---|---|
青色申告 | 65万円 |
各所得控除 | 135万円 |
課税所得 | 1,800万円 |
税率 | 40% |
控除額 | 279万6,000円 |
所得税額 | 440万4,000円 |
〇法人分 | 〇経営者分 | ||
事業所得 | 2,000万円 | 給与所得 | 800万円 |
---|---|---|---|
役員報酬 | 800万円 | 給与所得控除 | 200万円 |
各所得控除 | 135万円 | ||
課税所得 | 1,200万円 | 課税所得 | 465万円 |
税率(800万円超) | 23.2% | 税率 | 20% |
税率(800万円以下) | 15% | 控除額 | 42万7,500円 |
法人税額 | 212万8,000円 | 所得税額 | 50万2,500円 |
合計納税額 | 263万,500円 | 節税効果 | 177万3,500円 |
---|
<シミュレーション 事業所得5,000万円>
事業所得 | 5,000万円 |
---|---|
青色申告 | 65万円 |
各所得控除 | 135万円 |
課税所得 | 4,800万円 |
税率 | 45% |
控除額 | 479万6,000円 |
所得税額 | 1,680万4,000円 |
〇法人分 | 〇経営者分 | ||
事業所得 | 5,000万円 | 給与所得 | 800万円 |
---|---|---|---|
役員報酬 | 800万円 | 給与所得控除 | 200万円 |
各所得控除 | 135万円 | ||
課税所得 | 4,200万円 | 課税所得 | 465万円 |
税率(800万円超) | 23.2% | 税率 | 20% |
税率(800万円以下) | 15% | 控除額 | 42万7,500円 |
法人税額 | 908万8,000円 | 所得税額 | 50万2,500円 |
合計納税額 | 959万500円 | 節税効果 | 721万3,500円 |
---|
事業所得が2,000万円から5,000万円と2.5倍に増えると、節税効果は177万円から721万円と4倍以上高くなります。
つまり、稼げば稼ぐほど累進的に節税効果が大きくなる訳です。
あまり稼いでいない場合は節税メリットを期待できないため、法人化を検討する際は、節税効果を計算してみましょう。
建設業の個人事業主が法人化するデメリット
建設業の個人事業主が法人化する際は、以下のデメリットを考慮しておきましょう。
- 法人登記の費用がかかる
- 社会保険加入の手間や保険料負担が発生する
それぞれのデメリットを解説します。
法人登記の費用がかかる
法人登記は、設立した会社の事業目的や商号・役員構成・発行済株式数などを広く公表する制度です。
たとえば、下請け・元請けがどんな会社なのか知りたいときに、法務局で登記を閲覧すると会社概要を確認できます。
株式会社の法人登記には、20万円程度の費用がかかります。
法人登記の費用の内訳は、以下の通りです。
- 定款認証に伴う手数料・印紙代
- 登録免許税
- 登記事項証明書や印鑑証明書などの取得費用
- 司法書士・行政書士の報酬(手続きを依頼した場合)
登記申請は法人設立時だけでなく、役員の就任・辞任・住所変更、新株の発行などの際にも必要です。
社会保険加入の手間や保険料負担が発生する
個人事業主が法人化した場合、代表者1人だけの会社であっても社会保険に加入しなければなりません。
常時雇用の従業員がいるときは医療保険(協会けんぽなど)と厚生年金に加入する必要があり、毎月の保険料は労使折半です。
1週間の所定労働時間や1カ月の所定労働日数が常時雇用社員の3/4以上ある場合は、医療保険や厚生年金への加入が必要となります。
正社員だけでなくアルバイトやパートタイムも条件は同様です。
2024年4月1日以降は規制が厳しくなっており、社会保険未加入の事業所にはさまざまな不利益が発生しています。
たとえば、下請けに選定されない、または現場に入れないなどです。
社会保険の加入や脱退にはさまざまな書類が必要になるため、個人事業主よりも事務負担が重くなるでしょう。
建設業の個人事業主が法人化する際の注意点
建設業の個人事業主が法人化する際の注意点は、以下のとおりです。
- 営業所要件を確認する
- 資本金を確保する
- 会社の目的に「工事の請負及び・施工」を入れる
それぞれの注意点を詳しく解説します。
営業所要件を確認する
建設業の個人事業主が法人化するときは、まず営業所要件を確認してください。
自宅を法人の営業所にした場合、自治体によっては建設業許可を認めてもらえないケースがあります。
自宅兼営業所は営業所としての独立性がなく、居住用の賃貸物件は事業用に使えないため、基本的には営業所の要件を満たしません。
営業所には固定電話や事務用のパソコンなどが配備されており、建設業を営む際の使用権限や、商号の掲示も必要です。
資本金を確保する
株式会社を設立して一般建設業許可を取得する場合、「資本金500万円」の要件を満たす必要があります。
資本金(純資産)には不動産なども含みますが、預金残高証明書で現金500万円以上を証明できると許可申請時に資金調達能力があると判断されます。
資本金が500万円でも、不動産と現金の合算は認められないため、現金のみで500万円以上を準備した方がよいでしょう。
株式会社は資本金1円でも設立できますが、運転資金がなければ事業運営できないため要注意です。
会社の目的に「工事の請負及び・施工」を入れる
個人事業主を法人化する場合、定款には「工事の請負及び・施工」の記載が必要です。
会社の目的は定款の必須項目となるため、「工事の請負及び・施工」とともに、内装工事などの業種も記載しておきましょう。
建設業許可の申請時に「工事の請負及び・施工」の記載がなかった場合、後で定款変更する旨の誓約書や、念書の提出を求められます。
定款変更には株主総会の特別決議や登記申請が必要になるため、二度手間になってしまいます。
建設業の個人事業主が法人化する流れ
建設業の個人事業主が法人化する場合、手続きの流れは以下のようになります。
- 法人へ引き継ぐ業務と定款内容の決定
- 代表社印の作成と印鑑証明書の取得
- 定款の作成と認証
- 資本金の払い込み
- 法人設立登記の申請
- 自治体や税務署などに法人設立を届け出る
- 年金事務所で社会保険の加入手続きを行う
- ハローワークや労働基準監督署で労働保険関係の手続きを行う
- 法人名義の預金口座開設
- 個人事業主の廃業届を提出する
- 個人事業主から法人への資産移転
- 建設業許可を新たに取得する
- 取引先への挨拶など
手続きの時間を確保できないときは、行政書士や司法書士に代行してもらいましょう。
建設業の個人事業主の法人化に関するよくある質問
建設業の個人事業主が法人化する際のよくある質問は、次の通りです。
建設業許可は個人事業主でも取得できる?
法人化すると人材採用に有利になる?
法人化すると融資を引き出しやすくなる?
それぞれの質問に回答します。
建設業許可は個人事業主でも取得できる?
建設業許可は、個人事業主でも取得できます。
建設業許可の要件は、以下の6つです。
- 経営業務の管理責任者がいる
- 専任技術者がいる
- 財産的な基礎が安定している
- 誠実に契約を履行する
- 欠格要件に該当しない
- 社会保険に加入している
500万円以上の工事を請け負う場合は、建設業法に基づく許可が必要です。
法人化すると人材採用に有利になる?
法人化で人材採用が有利になるとは、言い切れません。
就職先の規模が大きく、安定した企業なのかどうかも重要な判断材料です。
法人化で安定志向の人材を集めようとするより、仕事内容や資格取得面での魅力を重視した方が、やる気のある人材獲得につながるのかもしれません。
法人化すると融資を引き出しやすくなる?
法人化と、金融機関の融資審査は関係ありません。
金融機関は融資に当たって、融資先の財務状態、融資資金の使途、返済見通しや担保・保証人の有無・事業プランの有望性について審査します。
提出書類を作り上げた上で、審査面接の際に金融機関の担当者が納得できるような説明が重要です。
まとめ
法人化には節税のメリットがあるため、個人事業主の税負担が重くなったときは、会社設立を検討してみましょう。
建設業が個人から法人に切り替わると、公共工事への入札に参加しやすくなり、大規模工事の受注や事業拡大も可能になります。
法人を設立する際は定款作成や登記申請、社会保険の加入や行政機関への届出も必要ですが、専門家にサポートしてもらうと手続きがスムーズです。
定款の作成や建設業許可の取得には専門知識が必要になるため、困ったときはベンチャーサポート行政書士法人の無料相談を有効活用してください。