この記事でわかること
- フルハーネス型安全帯の着用が義務化された理由や背景がわかる
- フルハーネス型安全帯の選び方や注意点を知ることができる
- フルハーネス型安全帯が義務化される際の疑問点が解決する
建設業に従事する人にとって、危険な現場で発生する事故を防ぐことは大きな課題となっています。
ここでは、安全を確保するために欠かせない安全帯について行われた「フルハーネス型安全帯の義務化」について解説します。
フルハーネス型安全帯を導入することにより、死亡災害の減少が期待されています。
一方で、実際にどのようなものを選べばいいのかわかりにくいといった疑問も生じているのです。
ここでは、新規格に対応したフルハーネス型安全帯の義務化の背景や、選び方について確認していきましょう。
- 目次
- 2019年2月からフルハーネス型安全帯の着用が義務化
- フルハーネス型安全帯の着用が義務化された理由・背景
- 新規格に対応しているフルハーネス型安全帯の選び方
- フルハーネス型安全帯の義務化に関するよくある質問
- まとめ
2019年2月からフルハーネス型安全帯の着用が義務化
これまでも、建設現場での高所作業にあたっては、安全帯の着用が必要とされていました。
ただ、これまで一般的に使われてきた安全帯は、胴ベルト型の安全帯です。
腰の周りに通した1本のベルトで全体重を支える形となり、いざという時の安全性については疑問視されていたのです。
そこで、2019年2月から、建設業の高さ5m以上の場所での作業については、フルハーネス型の安全帯の着用が義務付けられました。
さらに、2019年7月末からは、それまでの規格での安全帯の製造が中止となりました。
2022年1月からは、以前の規格での安全帯の着用や販売が全面的に禁止となります。
こうして、フルハーネス型の安全帯の着用が義務付けられ、従来の胴ベルト型の安全帯は入手もできなくなるのです。
フルハーネス型安全帯の着用が義務化された理由・背景
何故これまで主流とされていた胴ベルト型安全帯から、フルハーネス型安全帯が義務化されることとなったのでしょう。
そこには、胴ベルト型安全帯では安全性が不十分で、実際に事故が発生しているという実情があります。
墜落時に体にかかる衝撃を防ぐ
従来、建設現場で使用されている安全帯の主流は、胴ベルト型の安全帯でした。
胴ベルト型の安全帯でも、墜落による死亡事故を防ぐことはできます。
ただ一方で、腰だけにベルトを装着する形となる胴ベルト型の安全帯では、墜落の衝撃を胸部や腹部にもろに受けることとなります。
実際、墜落により地面にたたきつけられることは防ぐことができても、その衝撃を体に受けて死亡してしまうケースはありました。
そこで、万が一の場合にもより安全性の高い安全帯として、フルハーネス型の安全帯が義務付けられたのです。
フルハーネス型の場合、腰のベルトだけで体を支えるのではなく、肩や腿、骨盤の部分にもベルトが装着されます。
その結果、墜落事故が発生した場合にも1か所のベルトに全体重がかかるということはなく、衝撃が分散されます。
また、最悪の場合に安全帯が体から抜け落ちてしまうこともないため、胴ベルト型の安全帯よりはるかに安全性が高くなります。
胴ベルト型の安全帯では防ぐことのできなかった事故も、フルハーネス型の安全帯では防ぐことができるため、義務化されました。
逆さまの姿勢になる事故を防ぐ
胴ベルト型の安全帯を使用している場合、高所からの墜落は防ぐことができても宙づり事故が発生する可能性もあります。
宙づりとなった場合、姿勢が逆さまになることで頭部へのダメージが発生したり、呼吸が困難になったりすることがあります。
また、地面に近い位置で逆さまになると、頭部が地面に衝突してしまう可能性もあります。
これでは、いくら安全帯で墜落を防ぐことはできても本当に安全とはいえません。
フルハーネス型の安全帯を利用することで、このような宙づり状態の事故を防ぐことができます。
肩や腿のベルトで全身が固定されるため、宙づりとなっても逆さまになる可能性は極めて低いと考えられます。
また、宙づりとなって姿勢が安定しないということもなくなり、二次的な被害を防ぐことができるのです。
新規格に対応しているフルハーネス型安全帯の選び方
新しい規格で製造されたフルハーネス型の安全帯は、どのような観点から選ぶといいのでしょうか。
ここでは、具体的なフルハーネス型安全帯の選び方について解説していきます。
ショックアブソーバー付きのものを選ぶ
ショックアブソーバーとは、高所からの墜落事故が発生した場合、その衝撃を軽減してくれる装置のことです。
墜落した人の体への負担を少なくすることができるため、様々な被害を防ぐことができます。
体への衝撃を減らすことができれば安全取り付け設備への負担を軽減し、ランヤードの切断も防げます。
ショックアブソーバーには、大きく分けて2種類あります。
第一種と呼ばれるものは、フックを掛ける位置が腰より高い場合に用いるものです。
一方、第二種は腰より低い位置にフックを掛ける場合に使うものです。
第一種と第二種では、衝撃荷重やショックアブソーバーの伸びに違いがありますが、これは性能を表すものではありません。
5m以上の高さと5m以下の高さを行き来する場合
フルハーネス型の安全帯の使用が義務付けられるのは、建設業の場合、高さ5m以上の場所での作業となります。
5m以下の場所での作業については、フルハーネス型の安全帯の使用は義務付けられていません。
ただし、作業環境によっては、5m以上の高さと5m以下の高さを行き来することもあります。
このような場合は、基本的にフルハーネス型の安全帯を使用することとします。
5m以下の場所でフルハーネス型の安全帯を使用しないこととされているのは、落下した際に地面に到達する恐れがあるためです。
しかし、安全ロックがついたランヤード(命綱)を使えば、落下距離を短くし、安全に使用することができるのです。
高さがそれほどない場合は胴ベルト型を使う
高さが5m以下の場合でも、安全ロックがついたランヤードを使えば安全に使用することができると説明しました。
しかし、高さが2mほどしかないような場所では、安全ロックがついたランヤードを使っても安全とはいえません。
安全ロックがかかるまでに時間がかかるうえ、ショックアブソーバーの伸びで地面に到達してしまうこともあるためです。
比較的低い場所での作業については、胴ベルト型の安全帯を使用するか、作業床を設置して落下しない環境を作るようにしましょう。
同じメーカーのものでそろえる
安全帯は、「フルハーネス型の安全帯+ランヤード」の組み合わせで使用することとなります。
販売されている安全帯、ランヤードともに、その性能試験の際に、同じメーカーのものを組み合わせて実施しています。
異なるメーカーの商品を組み合わせて使用した場合、果たして同じような安全性能が発揮されるのかはわかりません。
安全帯とランヤードを実際に使用する際には、試験をパスしたのと同様、同じメーカーでそろえるようにしましょう。
仮に異なるメーカーの組み合わせで使用して、本当に安全という保証はありません。
フルハーネス型安全帯の義務化に関するよくある質問
フルハーネス型の安全帯を使用することが義務付けられ、これまでの胴ベルト型の安全帯を使用することができなくなっていきます。
一方で、作業環境によってはフルハーネス型の安全帯でなくてもいい場合もあるなど、わかりにくい面もあります。
ここでは、フルハーネス型安全帯が義務化されることによって生じる疑問について、まとめてみました。
旧規格の商品を使ったり購入したりすることはできる?
フルハーネス型の安全帯が義務化されたのは2019年2月からですが、すべてにおいて切り替えが求められているわけではありません。
2019年8月からは以前の規格に沿った商品の製造が禁止されていますが、まだ販売や使用が禁止されているわけではないのです。
そのため、2021年中であれば、旧規格の商品を使い続けることもできます。
ただし、2022年1月2日からは、以前の規格で作られた商品の販売や使用が禁止されます。
この日以降は、完全に新規格の商品を使うことが義務付けられるのです。
旧規格の安全帯と新規格のランヤードの組み合わせは可能?
旧規格に基づいて作られた安全帯と新規格で作られたランヤードを組み合わせて使うことは、メーカーでは想定していません。
そのため、旧規格と新規格の商品を組み合わせて使った場合の性能試験は実施されていません。
個々の商品自体に問題はなくても、その使い方によって本来の性能が発揮されないということも起こりえます。
安全に使用するためには、新規格で作られた安全帯とランヤードを組み合わせて使う方がいいでしょう。
胴ベルト型の安全帯は一切使用できなくなるのか?
胴ベルト型の安全帯は、建設業においては、5m以上の高さでの作業に使うことはできなくなります。
ただし、5m以下の場所での作業についてはフルハーネス型だとかえって危険な場合も考えられます。
そのため、5m以下の場所での作業については、引き続き胴ベルト型の安全帯が使用できることとなります。
ただし、胴ベルト型の安全帯でも注意しなければならないことがあります。
それは、胴ベルト型の安全帯でも、新規格に基づいたより安全な商品が販売されることです。
5m以下の場所で胴ベルト型の安全帯を使用する場合も、新たな規格のものを準備しなければならないのです。
そして前述したように、2022年1月2日以降は胴ベルト型安全帯でも、新規格に基づいたものしか使用できなくなります。
なお、この新規格の胴ベルト型安全帯は、すべて5m以下の高さでの使用を前提にしたものです。
そのため、猶予期間中であっても、新規格の胴ベルト型安全帯を高さ5m以上の場所で使うことはできません。
高所作業車での作業時に安全帯の使用は必要ない?
高所作業車の場合、囲いや手すりがあるため、安全帯の使用は必要ないと考えている方もいるかもしれません。
しかし、実際は高所作業者での作業においても、高さが5m以上となる場合は、フルハーネス型安全帯の着用が義務付けられます。
2022年1月2日以降は、5m以上の高さの場合、胴ベルト型安全帯での作業は認められません。
中古の安全帯やランヤードを使っても問題ない?
見た目はほぼ新品のような中古の安全帯やランヤードであっても、性能がそのまま維持されているとはいえない場合もあります。
見た目だけではその劣化状況はわからないため、中古品を購入して使うのはできるだけ避けた方がいいでしょう。
なお、未使用のものであっても、製造から7年以上経過したものは使用することはできないとされています。
また、ランヤードなどの使用期限は使用開始から2年、ベルトなどは使用開始から3年が使用期限の目安とされています。
この年数を超えて使用することのないよう、製造日や使用開始日を確認するようにしましょう。
まとめ
これまでも、安全対策として使用されてきた道具の数々ですが、その仕様が変更になると新たに購入しなければなりません。
一気に新しい規格のものに変更するのは難しいため、猶予期間を設けて徐々にその変更を行うこととされています。
従来の胴ベルト型安全帯より、フルハーネス型安全帯の方が安全で、使用する側にも大きなメリットがあります。
法律の定める期日までにすべて移管できるよう、前もって準備しておくようにしましょう。