20代若手社員の自主性と成長意欲を重視した「自己主導型」育成戦略!

2023年4月、渋谷にベンチャーサポート税理士法人の新たなオフィス、渋谷グロースオフィスが誕生した。コンセプトは「20代の若手コンサルタントで構成されるクラウド会計専門オフィス」。渋谷グロースオフィス代表税理士の垣見啓太さんに開設1年の歩みや30代管理職から見た若手社員の特徴について、ベンチャーサポート相続税理士法人の代表税理士・古尾谷が取材した。

垣見 啓太

垣見 啓太さん
ベンチャーサポート税理士法人  
渋谷オフィス 代表税理士

■プロフィール

21歳まで飲食業に従事していたが、将来への不安から、税理士資格の取得を目指すことに。大阪の会計事務所を経て、ベンチャーサポート税理士法人へ入社。顧問先担当、営業担当に従事した後、渋谷オフィス代表税理士に就任。

古尾谷 裕昭氏

古尾谷 裕昭 氏 (インタビュアー)
ベンチャーサポート相続税理士法人
代表税理士

■プロフィール

2012年にベンチャーサポート税理士法人と合併。2016年に相続専門部署開設、2017年にベンチャーサポート相続税理士法人設立、相続専門の司法書士・弁護士・行政書士・社会保険労務士・不動産会社が在籍するベンチャーサポートグループの中核を担う「ベンチャーサポート相続税理士法人」を代表税理士として率いている。

メンバー選びからオフィス環境構築まで全て自分たちで考えるという新しい試み

垣見 啓太

▲左から渋谷グロースオフィスリーダーの宮村翔大さん、代表税理士の垣見啓太さん

まず、渋谷グロースオフィス開設の経緯を教えてください。

組織の規模が拡大していく中で、若手スタッフを中心に
「自分より上の年次の人が多いからこの先のキャリアが停滞しそうで心配」
という声が上がるようになりました。

やる気や能力があっても、上のポジションが詰まっているためキャリアアップのチャンスを見込めないと悲観する若手が生まれている状況になっていたんです。

そこで、前年度の顧客紹介件数ランキング全国1位を獲得し、ずば抜けた成果を挙げてきた当時27歳の宮村をオフィスリーダーに据え、彼のような若手が「切磋琢磨」しながら成長(growth)できる環境を提供することを目的に、渋谷グロースオフィスが生まれました。

グロースオフィスのスタッフはどのように選ばれたのですか?

「スタッフの成長にフォーカスする」というコンセプトのもとに、都内の各オフィスに所属する20代を中心としたスタッフから「目標や仕事のゴールを自ら設定し、主体性をもって意欲的に仕事を進められる」と思われる人に声をかけました。

メンバー選抜にあたっては、弊社独自の基準である『個人PL』と顧客紹介成績も重視しました。

『個人PL』とは、スタッフごとに「紹介で増えた月額顧問料」と「増額できた月額顧問料」を収益と考え、「解約で減った月額顧問料」と「減額となった月額顧問料」を損失として集計します。そして収益から損失をマイナスして、1年間でどれだけ黒字か、もしくは赤字かを計算し個人ごとの損益を可視化した制度です。

個人PL

この個人PLが高く、意欲あふれるスタッフの中から面談を実施し、1対1で経営者とのコミュニケーションがしっかり取れる人物かどうかも判断し決定しました。

スタッフ数は何名ですか?

約20名です。内訳は担当者10名にアシスタントが7、8名ほど。
運営メンバーは私と宮村の2名です。

ベンチャーサポート本体のオフィス(以下、本体オフィス)は1オフィス当たり50名前後ですので、小人数オフィスの部類になります。

オフィスの内装にもこだわったと聞きました。

働くメンバーが働きたいと思える環境づくりにこだわり、精鋭メンバーが揃っているオフィスとして、スタイリッシュな空間を作りました。

かっこいいオフィスで働いている方がやはりテンションも上がると思いますし、そこに ふさわしい人物になりたいと思ってもらえるような環境的な効果も狙いました。

精鋭メンバーに選ばれた特別感も感じますよね(笑)。その他、本体オフィスにはない特徴はありますか?

一つは「クラウド会計専門オフィス」ということです。
最先端の会計ソフトであるマネーフォワード、freee、弥生会計オンラインを専門に取り扱うことで単純作業を減らし、付加価値の高い「コンサルティング」の部分をより深掘りすることが出来ています。

もう一つは、「WEB広告を出していない」ということです。
主にお客様からの紹介など、自分たちで新規のお客様を獲得し、収益を生み出しています。

ビジネスを通じた人間的成長(growth)にフォーカスする

垣見 啓太

昨年4月にオープンして1年が経ちますが、本体オフィスと比べて成長スピードはどうですか?

数字的な面でお話しますと、個人PLのオフィス別累計が他の本体オフィスと比べ約8倍の結果となりました。

個人PLはマイナスになる人もいますし、プラス15万円に到達すれば良い方と言われている中で、グロースメンバーの平均はプラス30万円と、かなり高い数値となります。
年末に発表される年間紹介ランキングでも2023年の全国1位はグロースメンバーでしたし、TOP20にグロースメンバーが5人ランクインしました。

やはり営業能力に優れたメンバーを集めてきているので、成長と数字に貪欲な人が多いですね。

WEB集客に頼らずとも収益が成り立つことを証明し、本体オフィスのスタッフにも良い影響を与えることができていると感じます。

確かにすごいですね!20代スタッフが中心のため、社歴の浅いスタッフが多いと思いますが教育面はどうしていますか?

メンバーの選考時に、教育は不要で自走できるか?という点も加味し最終決定しましたので、基本的には実務面の教育が必要なメンバーはいないです。
もちろん補填として、税務知識の豊富なベテランメンバーを2名配置していますので、困った時にはそのスタッフに相談できる体制にしています。

モチベーションなど意識付けの部分は主にオフィスリーダーの宮村が行っています。

あとはベンチャーサポートには『アドバイザー』という各オフィスを回って、オフィスリーダーとは違う立ち位置から担当者の課題解決のサポートをしてくれる役割の方がいるのですが、グロースメンバーも管理メンバー以外は全員アドバイザーがついてくれています。

▼アドバイザーと担当者の関係性

アドバイザー

成長意欲の高いスタッフ達を一つにまとめるのはなかなか大変だと思いますが、実際はどうでしたか?

正直大変でした(笑)。やりやすい面もあり、やりづらい面もあります。
オープン当初は、自分たちがやってやるぞ!という勢いも相まって、すごく熱量が高くそれが半年ぐらいは続きましたが、ずっとそのモチベーションを維持し続けるというのはいくら意欲の高いスタッフでもやはり難しかったです。

そのため時折、何のためにグロースに来たのか?グロースで何をやりたいのか?という問いかけをして、改めてグロースに来た意義や自分のやりたいことを思い出させ鼓舞する必要がありましたね。

先ほど話したアドバイザーという他オフィスの人からの情報は新しい刺激にもなりますし、モチベーションマネジメントはオフィスの内部からと外部からの両面で働きかけています。

グロースオフィスで得られることはなんだと思いますか?

精鋭メンバーが集まって切磋琢磨することによって、個人の能力をさらに伸ばしていけるところがメリットの一つでもあるんですけど、実は個人結果主義だけじゃなく相互協力も生まれオフィスの一体感も高まっています。

グロースメンバーには、帰属意識を高める意識付けもしているため、個人の成果が出たら良し!ではなく、個人成果を出したら次はオフィス全体の状況を見て、個人PLがマイナスの人がいたら今月は自分がその分を取り返す!といった助け合いの文化ができています。

小人数だから出来ているのかなと思いますが、本当にみんなが「グロースオフィスのために」という主体的な行動をしてくれています。

「グロースオフィス」成功の鍵は若手スタッフの「熱量」にあり

freee AdvisorDay2022

今後グロースメンバーにはどんなことを期待していますか?

一定期間グロースオフィスで経験を積んだあとは本体オフィスに戻り、グロースオフィスで学んだ経験を組織に還元し、周りを引っ張っていけるリーダーとなってもらう育成をしています。

すでにオープン当初のメンバーは3名ほど本体オフィスに異動し、第2期生が入ってきました。

今後、営業リーダーやオフィスリーダーといったキャリアステップを積んでいくスタッフを多く輩出できたらと思います。

グロースオフィスは特に士気の高い人たちの集まりですが、本体オフィスに戻ると周りとのモチベーションのギャップを感じてしまうこともありそうですが、それは事前に注意を促したりしていますか?

そうですね。グロースは同年代で同じ意識のメンバーが多いけど、本体オフィスは幅広い年齢層の人がいて、いろんな価値観を持っている人もいるから、数字だけじゃなくて管理の面でも全体のバランスを取っていかないといけないよということは伝えています。

弊社はもともと仲間同士競い合って教え合い、お互いを高め合っていくという文化があるのですが、それをグロースメンバーをきっかけにもっと波及し、組織全体が盛り上がることを期待しています。

グロースオフィスの次の展開はどんなことを考えていますか?

渋谷に続く、新たなグロースオフィスを生み出していく予定です。
まず2024年4月、新宿に第2のグロースオフィスを開設しました。
新宿の次は未定ですが、東京であれば銀座になるかと思います。

この記事をご覧になっている他の会計事務所さんが同じようなコンセプトオフィスを作られる場合、気をつけないといけない点があれば教えてください。

まず前提として、エネルギッシュなスタッフが集まらない限りは成立しないコンセプトです。

仕事に対する向き合い方として、とにかくお金を稼ぎたい、結果を残したい、1位になりたい!と仕事に没頭しているような人が1番ぴったり合いますが、今の20代は一般的にそうじゃないと思うんですよ。

いわゆるZ世代と呼ばれる一般的な20代は、ワークライフバランスを重視し仕事もプライベートも同じくらい大事にしていて、お金よりも「体験」することに価値を感じる傾向にあります。
矛盾があるのに、弊社で成立できているのは、おそらくマネジメントや教育の仕方など、ベンチャーサポートという特殊な環境だからなのかもしれないと思います。

若いスタッフが、「もっと上に行きたいのに上が詰まっていてチャレンジできる場がないんじゃないか」という声が出ない限り、同じようなコンセプトオフィスを誕生させても意味がないと思いますので、まずは若手スタッフたちの熱量をどれだけ高められるかが、1つのきっかけになってくるではないでしょうか。

「自分らしいキャリア」を求める次世代の採用動向と自発的な行動を引き出す教育法

垣見 啓太

▲渋谷グロースオフィス初期メンバー

熱量の高い若手スタッフは、元々そういう人を採用しているのか、入社してから高めているのか、どちらですか?

熱量の高い人が入社してくれるというより、採用面接の段階で熱量を引き上げる手法を用いています。
様々な企業を検討している求職者の方の入社意向を最大化させるのが、弊社の面接の特徴だと思っています。

面接時に「ベンチャーサポートに入社したら、こんな経験を得られます」「こういうチャレンジができますよ」と、自社の魅力を伝え、気づきを与えることで、最終的に「ベンチャーサポートで働きたい」という気持ちを高めた上で弊社を選んでいただいているので、入社してくるスタッフはとにかく熱量が高い人が多いです。

入社後にモチベーションを落とさないような教育メソッドもあります。
採用フェーズでどれだけ求職者の方のマインドセットを変えられるかというのは大きいかなと思います。

年間の応募者数1万人超の中で、会計業界に絞って応募してくれる方はどれくらいの割合ですか?

肌感覚では2割ぐらいでしょうか。

税理士事務所は弊社しか受けてない人や、弊社以外は全部コンサルティング会社というケースが当たり前になってきています。

昔だったら業界を絞ってないからと落とすこともあったと思いますが、今は出来ないので、会計業界で働く意義を伝えたり、成長にコミットする組織だと認識させ、ベンチャーサポートに絞らせる面接のやり方をしないと厳しい状況です。

最後に伝えたいことはありますか?

グロースオフィスを作ったきっかけの一つでもありますが、今の20代は一社に長く勤めてキャリアアップというより、より自分らしいキャリア観を求め転職することがごく一般的となっています。

だからか自分の経験値を広げ、どの会社でも通用する能力を求めている人が多いと感じます。

そう考えた時に、グロースオフィスというのは早い段階で裁量を持たせ、様々な経験ができることがメリットになっています。

昔は、これやれあれやれと、外発的な動機付けがメインなマネジメント教育だったのかと思いますが、今の20代はおそらく「自分がこうなりたいからこれをやってみたい」と自分の意志で取り組んでいるんだと実感を思わせないと主体的に動かないので、行動要因を湧き起こすことが、今の教育において大事なのかなと思います。

自分の価値を高めていきたい若者が多い中で、企業側がちゃんと手助けをしてあげられるかが、大事になってきますね。今日はありがとうございました!