【税務調査交渉及び見落としがちな税務判断】市街地価格指数及び鑑定評価を使う大前提

元国税調査官・税理士の松嶋です。
今回のテーマは「市街地価格指数及び鑑定評価を使う大前提」です。

税務上、取得費が不明な場合、以下の裁決を前提に、市街地価格指数による申告が認められると解説されています。

平成12年11月16日裁決(J60-2-19)

本件建物の取得費は、取得時期は判明しているが取得価額が不明なもの(新建物)については、N調査会(以下「調査会」という。)が公表している着工建築物構造単価から算定する。
また、本件宅地については、譲渡価額の総額から建物の取得費を控除して宅地の譲渡価額を算定したうえで、譲渡時に対する取得時の六大都市を除く市街地価格指数(住宅地)の割合を乗じて算定する。

上記の算定方法は、調査会が公表した数値であり、市場価格を反映した近似値の取得費が計算でき、合理的であると認められる。

取得費が不明であれば、合理的に認められる数字で処理することは所得課税の考え方からすれば当然と考えられますが、近年この市街地価格指数による申告に対し、国税は非常に厳しい対応をしています。

このため、適用には注意が必要です。とりわけ、最低限、以下の基準は満たしているか、確認が必要です。

平成30年5月7日裁決(F0-1-987)

3 請求人は、原処分庁及び当審判所に対して、売買契約書等が見つからないとして、本件土地の実額取得費を直接証明する資料等を提出せず、また、当審判所の調査によっても、本件土地の実額取得費は明らかにならなかったことから、本件土地の譲渡所得の金額の計算においては、納税者の利益に反しない限り、概算取得費をもって当該土地の取得費とするのが相当と認められる。

4 請求人は、本件土地については、(1)譲渡収入金額に全国市街地価格指数により求めた割合(変動率)を乗じることによって算出した昭和38年当時の推定価額と、(2)近隣する5地点の路線価の平均倍率(変動率)から求めた昭和38年当時の推定路線価を基に算出した価額との平均額(請求人推定額)をもって、取得費とするのが相当である旨主張する。

5 本件土地は、昭和38年当時に宅地として利用されている状況になかったことが認められるところ、市街地価格指数は「宅地価格」の推移を表す指標であり、また、路線価は、原則として「宅地」の評価に用いるものであるから、これらの指数又は金額の昭和38年から平成27年(本件譲渡の年)までの変動率をもって、本件土地のように農地から昭和38年以後に宅地へと利用形態の変更があった土地の昭和38年当時の価格を推定すること自体、その前提を欠くものといわざるを得ない。

6 請求人が請求人推定額の算定の基礎とする「全国市街地価格指数」は、全国223都市の平均指数を3つの利用地域区分ごとに表示する極めて概括的なものであり、宅地価格の平均的な変動状況を全国的・マクロ的にみるのに適しているものではあっても、個別の宅地価格の推移を推し量る指標として適当なものとはいい難い。

7 本件土地の存する地域と、請求人が本件土地の近隣から任意に抽出したとする5地点が存する地域は、〇〇により北と南に分断されており、昭和38年及び平成27年のいずれの時点においても町名を異にし、昭和38年当時の路線価の設定状況も異にしているところ、昭和38年当時において、それぞれの地域における土地の利用形態や価格水準などの経済的な事情は明らかに異なるものであったことが伺われる。このように状況の異なる地域の路線価の変動率をもって、昭和38年当時路線価の設定のなかった本件土地が接面する路線の路線価を推定するという方法は、合理的なものであるとはいい難い。

8 したがって、請求人の主張する算定方法は、本件土地の昭和38年当時の価額を推定する方法として合理的なものとは認められず、そのほか、当審判所の調査によっても、本件土地の譲渡所得の金額の計算において、概算取得費を用いて計算することにつき、請求人の利益に反する具体的な事情は認められない。

すなわち、宅地の推移を示す指標が市街地価格指数ですので、取得年及び譲渡年においては、「宅地」であることが、この指数を使う大前提とされることになります。

同様に、実務で使えないか質問を受けることの一つに、相続税の財産評価通達に代えて、不動産鑑定士による土地鑑定評価があります。

この鑑定評価については、従来から平等原則の見地に則り、ほとんど認められていません。

平成29年8月22日裁決(F0-3-585)

本件各鑑定評価額は本件各土地の客観的な交換価値を表すものと認められるから、本件各通達評価額は、時価を上回る違法なものである旨主張するところ、法令解釈等を踏まえると、当該主張の当否は、不動産鑑定士が作成した不動産鑑定評価書(本件鑑定評価書)が、評価通達の定めに従った評価、すなわち本件各通達評価額が時価を適切に反映したものであるとの事実上の推認を覆すだけの合理性を有するか否かという観点から検討されるべきである~
鑑定評価書は、鑑定評価の手法として取引事例比較法及び開発法を適用しているところ、取引事例比較法により求められた比準価格に合理性が認められず、また、開発法により求められた価格にも合理性が認められないことから、それぞれの価格を調整した結果である本件各鑑定評価額は、本件各土地の客観的な交換価値(時価)を表すものとは認められない~
したがって、本件鑑定評価書が、本件各通達評価額が時価を適切に反映したものであるとの事実上の推認を覆すだけの合理性を有していない以上、本件各通達評価額には、時価を上回る違法は認められない
~本件各土地について相続税の課税価格に算入すべき価額は、評価通達の定めにより評価した価額となる。

とりわけ、最低限満たしておくべき基準として、以下と判断された事例があります。

東京地裁平成31年1月18日判決(Z269-13228)

4 路線価方式による宅地の価額は、路線価を基として評価されるものであるところ、路線価は、売買実例価格、公示価格等を基として、1年間の地価変動に対応するなどの評価上の安全性を考慮して公示価格の80%程度の水準を目処として定められるものであるから、地価が1年間で20%を超えて下落するような事情がない限りは、路線価方式による宅地の価額が地価変動を理由に時価を超えることはなく、路線価や公示価格の評価時点と相続開始日との間に一定の時間差があることをもって、直ちに路線価方式の合理性が失われるものではない
(なお、本件係争土地について、平成23年1月1日から相続開始時までの間に20%を超える地価の変動があったとはうかがわれない。)。

5 相続税法の趣旨からすれば、納税者が鑑定意見書等に基づいて財産の時価を算出した場合に、仮に、当該鑑定意見書等による評価方法が一般に是認できるものであり、それにより算出された価格が財産の客観的な交換価値と評価し得るものであったとしても、当該算出価格が評価通達の定める評価方法に従って決定した評価額を下回っているというのみでは、評価通達の定める評価方法に従って算出された価額が相続税法22条に規定する時価を超えるものということはできない。 

6 本件係争土地について評価通達の定める評価方法によるべきではない特別の事情がある旨主張する原告の主張はいずれも理由がなく、本件全証拠によっても、本件係争土地について評価通達の定める評価方法によるべきではない特別の事情があるとは認められない。

1年間で20%超、下落するようなことがない限りは、路線価方式の合理性は失われないとあります。

となると、この程度の下落がなければ、原則として路線価方式に問題はなく、鑑定評価を使うことは難しいと言わざるを得ません。

市街地価格指数にしても不動産鑑定士の鑑定評価にしても、厳しい制限がある訳ですが、当初申告に比して更正の請求による適用は、前者も後者も非常に難しいため、更にリスクを覚悟して行う必要があります。

この場合、上記の最低限の要件は満たしていないと話になりませんから、この点は予めきちんとチェックする必要があります。


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