【税務調査交渉及び見落としがちな税務判断】常勤の日当と非常勤の日当は範囲が異なる

元国税調査官・税理士の松嶋です。
今回のテーマは「常勤の日当と非常勤の日当は範囲が異なる」です。

大きな節税効果が期待できる日当ですが、これが所得税などの非課税の要件を満たすためには、以下の要件を満たす必要があります。

所得税基本通達9―3(非課税とされる旅費の範囲)

法第9条第1項第4号の規定により非課税とされる金品は、同号に規定する旅行をした者に対して使用者等からその旅行に必要な運賃、宿泊料、移転料等の支出に充てるものとして支給される金品のうち、その旅行の目的、目的地、行路若しくは期間の長短、宿泊の要否、旅行者の職務内容及び地位等からみて、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内の金品をいうのであるが、当該範囲内の金品に該当するかどうかの判定に当たっては、次に掲げる事項を勘案するものとする。

(1) その支給額が、その支給をする使用者等の役員及び使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものであるかどうか。
(2) その支給額が、その支給をする使用者等と同業種、同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるものであるかどうか。

この要件はよく知られていますが、それと同様によく問題になることの一つに、日当の対象になる実費の範囲があります。
趣旨としては、以下の解説があります。

コンメンタール所得税法 2巻P345

鉄道運賃や宿泊費等の主要な費用については、必ずしも精算ができないわけではないとしても、食事その他の雑費的な費用に充てられるものとして支給されるいわゆる「日当」のようなものについては、その個々の支出について、その旅行のための必要性を判定することは、実務的にも不可能といえよう。

このため、実費精算が困難な食事その他の雑費的な費用が日当になるはずですが、押さえておきたいのは以下の裁決です。これだけ見ると、上記の趣旨とは異なり、実費精算が困難な食事その他の雑費的な費用に充てるものとしての日当は、認められず、対象になるのは交通費部分だけとも考えられます。

平成27年4月27日裁決(F0-2-579)

本件非常勤理事等は理事会及び各種委員会等の開催場所又は監査対象場所等の用務先へ自宅から直接出勤しており、宿泊を要しなかったことから、その出勤のために直接必要な費用は、実費としての本件交通費のみであると認められる。

そうすると、非常勤役員等に対し、その勤務する場所に出勤するために行う旅行に必要な運賃等の支出に充てるものとして支給される金品のうちその出勤のために直接必要であると認められる部分に限り課税しなくて差し支えない旨の所得税基本通達9-5の定めからすれば、非課税とされるべき金額は、本件交通費に限られるというべきである。

しかし、この解釈は正しくありません。正しくは、非常勤の役員や従業員は、実費精算が困難な食事その他の雑費的な費用の日当が認められないという結論になります。

このことは、上記裁決にもある所得税基本通達9-5(非常勤役員等の出勤のための費用)の規定及びその趣旨を見れば明白です。

所得税基本通達9-5(非常勤役員等の出勤のための費用)

給与所得を有する者で常には出勤を要しない次に掲げるようなものに対し、その勤務する場所に出勤するために行う旅行に必要な運賃、宿泊料等の支出に充てるものとして支給される金品で、社会通念上合理的な理由があると認められる場合に支給されるものについては、その支給される金品のうちその出勤のために直接必要であると認められる部分に限り、法第9条第1項第4号に掲げる金品に準じて課税しなくて差し支えない。

(1) 国、地方公共団体の議員、委員、顧問又は参与
(2) 会社その他の団体の役員、顧問、相談役又は参与

コンメンタール所得税法 2巻P345

国、地方公共団体の議員や委員、会社その他の団体のいわゆる非常勤の役員や顧問等にあつては、常には、他の職業に従事し、一定の会期ないしは一定の期日にのみ出勤するに過ぎない例が、かなり見受けられ、このような非常勤の役員等に対しても、これらの者が出勤した場合には、その使用者等から、その出勤に要する費用に相当する金額が通常の報酬とは別に支給されるのが通例であるが、これらの者の出勤日数は一般の常勤者に比較して著しく少なく、その出勤状態が「通勤」といえるものではないこと、これらの者の住所がその出勤する場所からかなり遠隔の地にある場合も多く、その出勤の費用も多額に上ることなどの事情から、これを一般の通勤手当と同様のものとして課税することは、かえつて実情に即さないと考えられるところから、これを旅費に準じて取扱うこととしたものである。

すなわち、常勤なら当然支給される通勤手当について、非常勤なら支給されることが通例ではないことから、その交通費を非課税にするために、所得税基本通達9-5において日当として非課税規定を適用することとしたものと考えられます。となると、

≪常勤役員及び従業員の日当≫
旅費や宿泊費などと実費精算が困難な食事その他の雑費的な費用で社会通念上相当なもの
≪非常勤役員などの日当≫
旅費や宿泊費などとで社会通念上相当なもの

このような違いがあると考えられます。このため、非常勤の日当と常勤の日当については、出張旅費規程などで費用の金額を分けておく必要があります。

加えて、非常勤の職員には、通勤手当は出せませんので、通勤手当の非課税金額を前提に通勤費用を支給することはできません。あくまでも、旅費として相当な金額が非課税になります。

この相当な金額については以下とあり、程度の問題ですが、タクシー代などが否認される可能性がありますので注意してください。

高松地裁平成28年11月9日判決(Z266-12928)

タクシーの利用は、公共交通機関又は自家用車を利用することができず、タクシーを利用する以外には出勤することができないような例外的な場合を除き、社会通念上合理性のある交通手段とは認められず、その費用の全てが出勤のために直接必要であるとはいえない。
本件勤務地は、E駅から徒歩5分の場所にある等、公共交通機関又は自家用車を利用することが可能であり、上記例外的な場合には当たらないから、タクシーの利用による本件勤務地への出勤は、一般的には、社会通念上合理性のある交通手段とは認められず、その費用の全てが出勤のために直接必要であるとはいえない。

4 原告は、医師の職責の重大性等に鑑みると、タクシーの利用が合理的と認められるべきであると主張する。しかし、公共交通機関又は自家用車の利用による出勤の負担が特に過重なものであって、そのような出勤形態をとった場合には、当該医師が十分にその職責を果たすことができなくなるとまでは認められず、実際にも、多くの非常勤医師らは、自家用車やJRを利用して本件勤務地に出勤しているが、それが原因で、その職務の遂行に支障を生じたことなどは証拠上うかがわれない。そうすると、医師の職責の重大性を考慮しても、公共交通機関又は自家用車の利用が可能であるのに、あえてタクシーを利用することが社会通念上合理的であるとはいえない。


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