【税務調査交渉及び見落としがちな税務判断】免税事業者や5千万円超の課税期間に対し簡易課税選択届出書は提出できるか

元国税調査官・税理士の松嶋です。
今回のテーマは「免税事業者や5千万円超の課税期間に対し簡易課税選択届出書は提出できるか」です。

よく受ける質問ですが、簡易課税制度選択届出書について、このような疑問があります。

  1. 翌期が免税事業者である場合に、簡易課税制度選択届出書を提出できるか
  2. 翌期が課税売上高5千万円超の簡易課税制度の適用がない課税期間である場合に、簡易課税制度選択届出書を提出できるか(2期目に提出する場合)

法律等を読んでも明確な回答がありません。このため、解釈について順に見ていきたいと思います。

上記1について、まず押さえたいのは以下の通達です。

消費税基本通達13-1-4(簡易課税制度選択届出書を提出することができる事業者)

簡易課税制度を適用できる事業者は、簡易課税制度選択届出書を提出した事業者で、当該課税期間の基準期間における課税売上高が5,000万円以下である事業者に限られるのであるが、当該簡易課税制度選択届出書の提出は免税事業者であってもできるのであるから留意する。

この通達の趣旨については、以下とあり、提出した翌期が課税事業者であることを前提としています。

平成30年版消費税法基本通達逐条解説 P800~801

この消費税簡易課税制度選択届出書は、基準期間における課税売上高が1,000万円を超え5,000万円以下である課税期間について簡易課税制度を適用しようとする場合に提出するものであるが、その届出書の効力は提出した日の属する課税期問の翌課税期間から生ずることとされている。
このため、翌課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円を超え5,000万円以下であることが明らかな免税事業者が当該翌課税期間から簡易課税制度を適用しようとする場合には、当然のことながら今課税期間中に当該届出書を提出しなければならないこととされている。
すなわち、消費税簡易課税制度選択届出書は、免税事業者でも提出できるものである。

このため、翌期免税事業者となる納税者が簡易課税制度選択届出書を提出することは趣旨からすると問題がありそうです。
しかし、法令上は提出した期の翌期から適用するとしか規定されていません。

消費税法37(中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例)1項

事業者~が、その納税地を所轄する税務署長にその基準期間における課税売上高~が五千万円以下である課税期間~についてこの項の規定の適用を受ける旨を記載した届出書を提出した場合には、当該届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間~以後の課税期間(その基準期間における課税売上高が五千万円を超える課税期間及び分割等に係る課税期間を除く。)については~課税仕入れ等の税額の合計額は~次に掲げる金額の合計額とする~(以下省略)

加えて、消費税法37条3項に規定する、簡易課税制度選択届出書の提出できない期に、免税事業者となる課税期間は含まれていませんので、提出できないとか、または、提出しても無効になることはないはずです。

その他、消基通13-1-4と類似している、課税事業者選択届出書の提出に関する消基通1-4-10の趣旨は、以下と解説されていますので、同様に解釈し、免税事業者でも提出できると考えます。

平成30年版消費税法基本通達逐条解説 P81~82

この課税事業者の選択制度においては、過去の課税期間における課税売上高が1,000万円以下であり、その課税期間を基準期間とする課税期間が到来し、実際に、免税事業者に該当することとなる事業者のみが課税事業者となることを選択することができるのではなく、将来的に、その課税期間における課税売上高が1,000万円以下となり、その課税期間を基準期間とする課税期間において課税事業者となることをあらかじめ選択することもできるのである。

したがって、消費税法第9条第4項(課税事業者の選択)に規定する「消費税を納める義務が免除されることとなる事業者」、すなわち、課税事業者となることを選択することができる事業者とは、実際に過去の課税期間における課税売上高が1,000万円以下であったかどうかにかかわらず、およそ基準期間における課税売上高が1,000万円以下となり免税事業者に該当することとなっても、課税事業者になることを選択しようとする者をいうのであり、消費税課税事業者選択届出書(様式通達第1号様式)を提出しようとする課税期間において、免税事業者であるか課税事業者であるかは問わないのである。

実際、下記のような事例もあります。

平成30年6月5日裁決(F0-5-255)

(税理士が提出した消費税簡易課税制度選択届出書の効力) 請求人が甲税理士に与えたのは所得税に係る税務代理権限のみであり、簡易課税制度選択届出書の提出時(課税事業者となる前年3月)、甲に消費税等についての税務代理権限はなかったとの請求人の主張が認められず、甲との顧問契約を解約後、乙税理士が本則課税を適用して行った消費税等の確定申告に係る更正処分が適法とされた事例(平26.1.1~平27.12.31の各課税期間の消費税等に係る各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分・棄却・平30-06-05裁決)

次に2についてですが、消費税法37条1項は、簡易課税制度が適用される、「届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間」以後の課税期間から、カッコ書きで「その基準期間における課税売上高が五千万円を超える課税期間~を除く。」としています。

となると、翌期以後の課税期間が5千万円超である場合も含めた前提で規定がなされていますから、翌期の基準期間の課税売上高が5千万円超でも、簡易課税制度選択届出書は提出できると考えられます。

なお、提出ができるのであれば、基準期間の課税売上高が5千万円超の期間も2年縛りの期間に含まれることになると考えられます。


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