元国税調査官・税理士の松嶋です。
今回のテーマは「使用貸借の注意点」です。
贈与税や相続税において、使用貸借に係る土地は自用地と同様に取り扱われます。
この取扱いは以下の通達で定められています。
(昭和48年11月1日付直資2-189(例規))
~建物等~の所有を目的として使用貸借による土地の借受けがあった場合においては、~借地権の慣行のある地域~においても、当該土地の使用貸借に係る使用権の価額は、零として取り扱う。
このような取扱いがなされますので、例えば使用貸借権が付された土地を売却した場合、その売却収入は、原則として地主が全額申告することになります。
使用貸借に係る土地を譲渡した場合の譲渡収入金額の配分は~使用貸借通達の施行後の場合~土地の譲渡収入金額は、全額土地の所有者に帰属します。
同様に、使用貸借の場合には、立退料のようなものも発生しません。発生させたとすれば、贈与税の課税問題が生じます
質疑応答事例相続1402 贈与財産の範囲 使用貸借に係る農地の離作料と贈与税
【平成30年12月26日国税庁ホームページ更新】
使用貸借に係る農地の離作料と贈与税
【照会要旨】
H市に所在する農地を妹(H市に居住)が兄(O市に居住)から使用貸借により借り受け、(この使用貸借については農地法の規定による許可を受けている。)耕作していましたが、その農地を兄が譲渡し、その譲渡代金の一部を離作料として妹に対して支払いました。
この場合、妹は兄から受領した離作料について贈与税の課税関係が生ずることになりますか。
【回答要旨】
農地の使用貸借に関する権利の価額は零として評価することとしています。
したがって、妹は兄から離作料相当額の金銭の贈与を受けることとなるので妹に対して贈与税の課税関係が生ずることとなります。
【関係法令通達】
相続税法第21条の2第1項
加えて、使用貸借は無償で貸すことであるため、個人間は無償で貸しても問題ないとされていますが、経済的利益の課税問題は生じており、ただ少額ないし課税上弊害がないため課税がされていないにすぎない、という点にも注意が必要です。
相事例1846 税相版 誤りやすい事例集(改訂版)(贈与税105)経済的利益
誤りやすい項目 使用貸借により土地を借り受けた場合の経済的利益の課税(平成14年6月)
東京国税局・税務相談室【情報公開法第9条第1項による開示情報】
概要
【誤った認識】
使用貸借による場合は、権利が発生しないので経済的利益はない
【正しい答え】
土地を無償使用することによる経済的利益(地代相当額)は経済的利益の課税対象(権原である使用借権は価額が0であり課税されない)
【根拠法令等】
使用貸借通達1、相基通9-10
【その他(コメント・作成年)】
通達により少額又は課税上弊害がないと認められる場合にはしいて課税しなくてもよい
平成14年6月作成
これらの取扱いはよく知られていますが、注意点として、使用貸借している土地についても、貸家建付地評価する場合があります。
相事例1869 税相版 誤りやすい事例集(改訂版)(財産評価128)土地
誤りやすい項目 自己の土地上に建てたアパートを親族に贈与し、その土地は使用貸借により貸し付けることとした場合の土地の評価(平成14年6月)
東京国税局・税務相談室【情報公開法第9条第1項による開示情報】
概要
【誤った認識】
土地の貸付が使用貸借なので、自用地評価となる
【正しい答え】
贈与後、借家人に異動がない場合には貸家建付地の評価となる(借家人の敷地に及ぼす権利は、土地の使用貸借関係の開始前に発生しており、当該権利は建物所有者が代わっても消滅しない)
【根拠法令等】
【その他(コメント・作成年)】
借家権の発生時期と建物所有者の移転時期の確認必要
平成14年6月作成
すなわち、以下の要件を満たすと、借家権が発生している部分については、その借家権は無視できないため、貸家建付地評価になります。
- 当初は貸家建付地で借家権の発生あり
- その貸家建付地である建物を贈与
- 土地は使用貸借
- 借家人が変わらない
その他、上記の使用貸借通達が施行される昭和48年11月前の取扱いとして、仮に借地権等の課税がなされていれば、底地評価となる点にも注意が必要です。
6(経過的取扱い ― 土地の無償借受け時に借地権相当額の課税が行われている場合)
従前の取扱いにより、建物等の所有を目的として無償で土地の借受けがあった時に当該土地の借受者が当該土地の所有者から当該土地に係る借地権の価額に相当する利益を受けたものとして当該借受者に贈与税が課税されているもの、又は無償で借り受けている土地の上に存する建物等を相続若しくは贈与により取得した時に当該建物等を相続若しくは贈与により取得した者が当該土地に係る借地権に相当する使用権を取得したものとして当該建物等の取得者に相続税若しくは贈与税が課税されているものについて、今後次に掲げる場合に該当することとなったときにおける当該建物等又は当該土地の相続税又は贈与税の課税価格に算入すべき価額は、次に掲げる場合に応じ、それぞれ次に掲げるところによる。
(1) 当該建物等を相続又は贈与により取得した場合 当該建物等の自用又は貸付けの区分に応じ、それぞれ当該建物等が自用又は貸付けのものであるとした場合の価額とし、当該建物等の存する土地に係る借地権の価額に相当する金額を含まないものとする。
(2) 当該土地を相続又は贈与により取得した場合 当該土地を相続又は贈与により取得する前に、当該土地の上に存する当該建物等の所有者が異動している場合でその時に当該建物等の存する土地に係る借地権の価額に相当する金額について相続税又は贈与税の課税が行われていないときは、当該土地が自用のものであるとした場合の価額とし、当該建物等の所有者が異動していない場合及び当該建物等の所有者が異動している場合でその時に当該建物等の存する土地に係る借地権の価額に相当する金額について、相続税又は贈与税の課税が行われているときは、当該土地が借地権の目的となっているものとした場合の価額とする。
すなわち、昭和48年11月前に使用貸借し、贈与税等が課税されているものについては、正しく課税されていれば、建物部分は借地権と建物、土地は底地のみ、という前提になりますので、それを改正後の建物分は建物のみ、土地は自用地という評価に直す必要があります。
このため、以下のように取り扱われると考えられます。
1 建物→現状の利用区分に応じ、自用又は貸付。借地権部分はゼロ評価。
2 土地
- 相続等の前に建物の所有者が異動し、かつその異動時に借地権の課税がなされていない場合→自用地評価
- 相続等の前に建物の所有者が異動し、かつその異動時に借地権の課税がなされている場合→底地評価
- 相続等の前に建物の所有者が異動していない場合→底地評価
詳細、TKC税務Q&A「使用貸借の開始した際に借地権相当額の課税が行われた土地を取得した場合のその土地の評価」もご参照ください。
下記でも情報を発信していますので、ご参考にしてください。
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