匿名組合の分配金と更正の請求

元国税調査官・税理士の松嶋です。
今回のテーマは「匿名組合の分配金と更正の請求」です。

商法では、匿名組合で事業を行うことが認められています。匿名組合は任意組合とは異なり、営業者に収益費用の全額が帰属し、その後組合員に払う分配金の全額が損金になるというペイスルーの取扱いが設けられます。

法人税基本通達14-1-3(匿名組合契約に係る損益)

法人が匿名組合員である場合におけるその匿名組合営業について生じた利益の額又は損失の額については、現実に利益の分配を受け、又は損失の負担をしていない場合であっても、匿名組合契約によりその分配を受け又は負担をすべき部分の金額をその計算期間の末日の属する事業年度の益金の額又は損金の額に算入し、法人が営業者である場合における当該法人の当該事業年度の所得金額の計算に当たっては、匿名組合契約により匿名組合員に分配すべき利益の額又は負担させるべき損失の額を損金の額又は益金の額に算入する。

いったん営業者に帰属するというのが肝で、法人税の申告は営業者の所得を分配金でゼロにし、消費税の申告は営業者が行うという取扱いになっています。

消費税法基本通達1-3-2(匿名組合に係る消費税の納税義務)

匿名組合の事業に属する資産の譲渡等又は課税仕入れ等については、商法第535条(匿名組合契約)に規定する営業者が単独で行つたことになるのであるから留意する。

加えて、匿名組合の分配金は原則雑所得に該当します。このため、受取配当益金不算入など、配当所得としての取扱いはありません。

所得税法基本通達36・37共-21(匿名組合契約による組合員の所得)

匿名組合契約~を締結する者で当該匿名組合契約に基づいて出資をする者~が当該匿名組合契約に基づく営業者から受ける利益の分配は雑所得とする。

ただし、匿名組合員が当該匿名組合契約に基づいて営業者の営む事業~に係る重要な業務執行の決定を行っているなど組合事業を営業者と共に経営していると認められる場合には、当該匿名組合員が当該営業者から受ける利益の分配は、当該営業者の営業の内容に従い、事業所得又はその他の各種所得とする。

一方で、出資金については、財産評価や消費税法上は、有価証券に類似した取扱いとなっていますので、注意が必要です。TKC税務Q&A「リースに係る匿名組合の出資金の相続税の財産評価額について」や「匿名組合の出資者の持分の譲渡」をご参照ください。

このように、複雑な取扱いになっている訳ですが、解釈上疑義があることの一つに、営業者が組合の所得計算を間違えた場合の取扱いがあります。分配金を支払った後、例えば売上の計上漏れが見つかったとします。

通常は、分配金で所得をゼロとしているはずで、このような後発事由のために、営業者に課税が起こると問題が生じます。

この点、取扱いとしては以下とされていますので、売上計上漏れ分も分配したものとして所得計算を行うことが出来ます。

TAINS 法人事例003580
法事例3580 匿名組合契約の損益の計算

〔問〕
不動産業を営む当社(資本金1,000万円)とその株主であるB社及び個人3人は、当社を営業者とする匿名組合契約を締結しており、B社及び個人3人は、組合員として1億円の出資をし、当社において生じた利益の30%相当額の分配を受けることとなっている。

当社の平成××年9月期の決算の取りまとめを行っていたところ、平成××年の前年の平成△△年9月期について匿名組合契約に係る損益計算に誤りのあること(売上の計上漏れ)が判明したので、ただちに利益の30%相当額を分配した。
これを受けて、B社及び個人3人は、ただちに平成△△年9月末日を含む事業年度又は△△年分について分配を受けられる金額(売上計上漏れ額の30%相当額)の修正申告をした。

そこで、当社も平成△△年9月期の修正申告に当たり、組合員に対する利益の分配が平成△△年9月期末に確定していなかったとして売上計上漏れ額の全額について修正申告の対象としなければならないか。それとも組合員に分配すべき30%相当額は控除して差し支えないか。
仮に、控除できないとすればいつの事業年度の損金の額に算入することができるか。

〔答〕
法人が匿名組合員である場合におけるその匿名組合営業について生じた利益の額又は損失の額については、現実に利益の分配を受け、又は損失の負担をしていない場合であっても、匿名組合契約によりその分配を受け又は負担をすべき部分の金額をその計算期間の末日の属する事業年度の益金の額又は損金の額に算入し、法人が営業者である場合における当該法人の当該事業年度の所得金額の計算に当たっては、匿名組合契約により匿名組合員に分配すべき利益の額又は負担させるべき損失の額を損金の額又は益金の額に算入することになる。〔法基通14-1-3〕

そこで、本問の場合には、匿名組合契約に係る平成△△年9月末日までの計算期間に含まれる売上計上漏れに伴う損益は、まず、B社及び個人3人の平成△△年9月末日を含む事業年度又は△△年分について分配を受けられる金額を所得に加算する必要があるので、B社等が行った修正申告は正しい手続をとったことになる。

次に、貴社においても平成△△年9月期の修正申告が必要であるが、匿名組合契約によって匿名組合員であるB社及び個人3人に帰属すべき部分の利益(30%部分)を控除した残額を所得に加算して申告することとなる。〔法法22,65〕

※ 匿名組合契約とは、当事者の一方が相手方の営業のために出資を為し、その営業より生ずる利益を分配すべきことを約する契約であり〔商法535〕、匿名組合員の出資は営業者の財産に帰属し、匿名組合員は営業者の行為につき第三者に対して権利義務を有しない。〔商法536〕

18-01-01現在


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