【税務調査交渉及び見落としがちな税務判断】事前通知と帳簿の保存

元国税調査官・税理士の松嶋です。
今回のテーマは「事前通知と帳簿の保存」です。

よく質問を受ける事例なのですが、事前通知と資料の保存年限について、その関係性につき疑問を持たれる方もいらっしゃるようです。

例えば、以下のような事実関係がある調査で、事前通知以外の年分の資料の確認を拒否できるかが問題になります。

  1. 事前通知で過去3期の調査を指示された
  2. 過去3期の調査において、10年前に取得した減価償却資産の処理が問題になった
  3. 国税は、10年前の資料を見たいと言っている
  4. 事前通知は3期のため、クライアントは断りたいと考えている

事前通知が法制化されてから、よくある質問でもありますが、事前通知されていない年分は非違が疑われる場合を除き、原則調査されない、といった解説がなされることがあります。

しかし、この見解は誤りです。

このような解釈の根拠として、以下の条文が挙げられます。

国税通則法74条の9(納税義務者に対する調査の事前通知等)4項

(注:通法74の9(1)の事前通知の規定)は、当該職員が、当該調査により当該調査に係る~(注:一定の事前通知)事項以外の事項について非違が疑われることとなった場合において、当該事項に関し質問検査等を行うことを妨げるものではない~

上記の条文について、法の趣旨は「確認的規定」と解説されています。

つまり、当然にできることを、法律上明記したにすぎず、何かしらの効力を発生させるものではないと解されます。

「平成24年度 改正税法のすべて」P235

通知した事項以外の事項に関して税務職員が調査を行うことは一切認められないということではなく、一定の事項については仮に事前通知時点ではその事前通知の内容に含まれていなかったとしても、調査着手後に非違が疑われる場合には当該事項についても質問検査等を行うことができることについて、確認的に規定がされたものです。

また、こうした「通知事項以外の事項」に関して質問検査等を行う際には、改めて事前通知を行う必要はないこととされています(通法74の9(4)後段)。

(注) 上記の「通知事項以外の事項」については、例えば、「事前通知をした調査対象期間(課税年度)」に非違があった場合において、それ以前の「通知事項としなかった課税年度」についても同様の非違が疑われるに至った場合の当該「通知事項としなかった課税年度」に係る調査事項などがこれに該当するものと考えられます。

こういう訳で、事前通知されていないことをもって税務調査に必要な資料を提示しないということはできませんし、そもそも「当期の減価償却費のための調査」である以上、事前通知の範疇としても、調査ができることになります。

税務調査手続通達5-5
(「調査の対象となる期間」として事前通知した課税期間以外の課税期間係る「帳簿書類その他の物件」)

事前通知した課税期間の調査について必要があるときは、事前通知した当該課税期間以外の課税期間(進行年分を含む。)に係る帳簿書類その他の物件も質問検査等の対象となることに留意する。

(注)例えば、事前通知した課税期間の調査のために、その課税期間より前又は後の課税期間における経理処理を確認する必要があるときは、法第74条の9第4項によることなく必要な範囲で当該確認する必要がある課税期間の帳簿書類その他の物件の質問検査等を行うことは可能であることに留意する。

なお、上記にもある通り、事前通知年分の調査のために、通知していない年分の資料を確認することは、国税通則法74条の9(納税義務者に対する調査の事前通知等)4項によることなくできますから、この条文を持ち出すことも的外れということになります。

次に、税務に関する資料の保存年限は、欠損金の繰越控除の適用を受ける場合を除き、原則として法定申告期限から7年間となります。

法人税法施行規則59条(帳簿書類の整理保存)

青色申告法人は、次に掲げる帳簿書類を整理し、起算日から七年間、これを納税地(第三号に掲げる書類にあっては、当該納税地又は同号の取引に係る国内の事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地)に保存しなければならない。

一 第五十四条(取引に関する帳簿及び記載事項)に規定する帳簿並びに当該青色申告法人の資産、負債及び資本に影響を及ぼす一切の取引に関して作成されたその他の帳簿
二 棚卸表、貸借対照表及び損益計算書並びに決算に関して作成されたその他の書類
三 取引に関して、相手方から受け取った注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類及び自己の作成したこれらの書類でその写しのあるものはその写し

2 前項に規定する起算日とは、帳簿についてはその閉鎖の日の属する事業年度終了の日の翌日から二月~を経過した日をいい、書類についてはその作成又は受領の日の属する事業年度終了の日の翌日から二月を経過した日をいう。

この規定ですが、7年超の所得計算に影響がある減価償却等の計算について、特段の規定がありませんから、7年超前の減価償却資産の取得に関する資料について、保存する必要はないと考えられます。

あくまでも、「書類についてはその作成又は受領の日の属する事業年度終了の日の翌日から二月を経過した日」から7年が保存年限だからです。

となれば、この規定を盾に保存義務がないため保存がなく、提示ができないという抗弁は問題ないと考えられます。

なお、欠損金の繰越控除を使う場合には、保存年限が10年となりますが、保存すべき書類等は上記法人税法施行規則59条と同様とされています。

法人税法施行規則26条の3(欠損金に係る帳簿書類の保存)1項

内国法人が法第五十七条第一項(欠損金の繰越し)の規定の適用を受けようとする場合~には、当該内国法人は、同項の欠損金額が生じた事業年度の第五十九条第一項各号~に掲げる帳簿書類~を整理し、第五十九条第二項に規定する起算日から十年間、これを納税地~に保存しなければならない。

ところで、仮に法定の保存年限を超えて保存をしていた場合、その提示を断ることは上記税務調査手続通達5-5により質問検査権の受忍義務に抵触する可能性が大きいと解されます。

以上まとめますと、結論としては以下となります。

  1. 事前通知の条文に基づいて拒否することはできない
  2. 10年前の減価償却に関する資料の保存をしていなければ、提示を断れる
  3. 10年前の減価償却に関する資料の保存をしていれば、提示を断れない

このあたり、正確に整理をしておかなければ、誤った対応をして不利益を被りますので注意してください。


下記でも情報を発信していますので、ご参考にしてください。
元国税調査官・税理士松嶋洋のFacebookページ

税務調査対策ノウハウPDF

元国税調査官だから話せる税務調査対策ノウハウPDFを、完全に無料で公開しています。
松嶋税務セカンドオピニオン&税務調査対策ノウハウPDF

松嶋税務セカンドオピニオン

税理士先生からの税務相談を1時間5万円(税抜)で受けています。
同一テーマなら追加料金なく相談可能ですので、安心してご相談ください。
松嶋税務セカンドオピニオン

「税務調査交渉及び、見落としがちな税務判断」についての注意事項

  1. 記載については、著者の個人的見解であり正確性を保証するものではありません。
    本コラムのご利用によって生じたいかなる損害に対しても、賠償責任を負いません。
    加えて、今後の税制改正等により、内容の全部または一部の見直しがありうる点にご注意ください。
  2. 掲載中の文章等の著作権は著者である合同会社アクトオーシャンに帰属し、無断転用・ 転写・複製を禁止致します。