元国税調査官・税理士の松嶋です。
今回のテーマは「賃借建物の造作の注意点」です。
賃借した建物にした造作の耐用年数について、賃借期間の定めがありかつ有益費償還請求がない場合には、その賃借期間で償却することができるとされています。
法人が建物を貸借し自己の用に供するため造作した場合~の造作に要した金額は、当該造作が、建物についてされたときは、当該建物の耐用年数、その造作の種類、用途、使用材質等を勘案して、合理的に見積った耐用年数により、建物附属設備についてされたときは、建物附属設備の耐用年数により償却する。
ただし、当該建物について賃借期間の定めがあるもの(賃借期間の更新のできないものに限る。)で、かつ、有益費の請求又は買取請求をすることができないものについては、当該賃借期間を耐用年数として償却することができる。
この取扱いは、非常によく知られたものですが、反面、以下のような疑義をよく耳にします。
1 造作の資産区分。建物とするか、附属設備とするか。
2 定期借地権が付された土地の上の建物に適用できるか。
3 相続税の評価において、ゼロ評価はできるか。
順に見ていきます。造作をするといっても、それが建物に該当するか附属設備とすることができるか、この点疑義があります。
減価償却の方法ともかかわってくるのですが、その区分は、「建物附属設備に該当する場合を除き」とあることから、原則として建物附属設備として耐用年数省令別表1に掲記されているかで判断します。
建物の内部に施設された造作については、その造作が建物附属設備に該当する場合を除き、その造作の構造が当該建物の骨格の構造と異なっている場合においても、それを区分しないで当該建物に含めて当該建物の耐用年数を適用する。
したがって、例えば、旅館等の鉄筋コンクリート造の建物について、その内部を和風の様式とするため特に木造の内部造作を施設した場合においても、当該内部造作物を建物から分離して、木造建物の耐用年数を適用することはできず、また、工場建物について、温湿度の調整制御、無菌又は無じん空気の汚濁防止、防音、遮光、放射線防御等のために特に内部造作物を施設した場合には、当該内部造作物が機械装置とその効用を一にするとみられるときであっても、当該内部造作物は建物に含めることに留意する。
次に、建物の取壊しが必須となる定期借地権の上にある建物については、この取扱いの対象にはなりません。建物そのものの物理的耐用年数に影響を及ぼすものではないからです。
法事例5222 税相版 誤りやすい事例集(改訂版)(法人税22)減価償却
誤りやすい項目 定期借地権を設定して建物を建築した場合の減価償却計算(平成14年6月)
東京国税局・税務相談室【情報公開法第9条第1項による開示情報】
【誤った認識】
建物等の法定耐用年数が定期借地権の契約期間より長い場合、その契約期間を耐用年数として減価償却費の計算をすることができる
【正しい答え】
定期借地権の契約期間は物理的に建物自体の耐用年数に影響を与えるものではないので、法定耐用年数で減価償却費の計算をしなければならない
【根拠法令等】
法法31(1)、法令48(1)
【その他(コメント・作成年)】
平成14年6月作成
現状確認ができないこととなりましたが、以下のような裁決事例もあるようです。
本件建物の賃貸借契約の期間が10年に限定され、その満了に伴い本件建物の解体撤去が将来予定されていること等から、法定耐用年数の40年に代えて当該契約期間をもって償却の期間とすべきである旨主張するが、法人税法にあっては、各企業の恣意性の介入を排除し、租税の公平負担を実現するため、耐用年数省令によって画一的基準たる法定耐用年数が定められていること及び固定資産が取壊されたような場合には、取壊された同資産の実際の残存価額をその取壊した日の属する事業年度の損金の額に算入するというものであり、各事業年度において、将来の取壊しに伴う固定資産の損失をあらかじめ配分することとはされていないこと等から、耐用年数省令別表第一に基づき、本件建物の耐用年数を40年として償却計算を行うべきである。
最後に、相続税の取扱いですが、有益費償還請求を放棄し、賃借期間で減価償却をしているのであれば、ゼロ評価で問題ないと考えられます。
取引相場のない株式の評価上、賃借建物の内装設備を純資産価額に計上すべきか【東京税理士界 平成30年6月1日第737号掲載】
取引相場のない株式の評価上、賃借建物の内装設備を純資産価額に計上すべきか
【事例】
評価会社が有する賃借店舗の内装設備(貸借対照表に建物附属設備として未償却残高が計上されている)は、取引相場のない株式を評価する際の純資産価額の計算上、資産として計上する必要があるか。
なお、賃貸借契約書には「契約が終了した際は造作を施す前の原状に回復して明け渡すか、設置した造作を無償で賃貸人に渡さなければならない」旨が記載されている。
【回答】
本事例の内装設備は、取引相場のない株式を評価する際の純資産価額の計算上、資産として計上する必要はない。
【検討】
取引相場のない株式を評価する際の純資産価額の計算上、資産として計上する金額は、課税時期における各資産を財産評価基本通達に定めるところにより評価した価額とされている(評価通達185)。そこで、本事例の内装設備の財産性について検討してみる。
Ⅰ 附属設備としての評価
建物所有者が自己の建物に設置した内装設備については、一般的には財産評価基本通達92(附属設備等の評価)を用いて評価する。
しかし、本事例の場合は、賃借人が賃借店舗について設置した内装設備であり、民法上、その内装設備の所有権は建物所有者に帰属することになる。(民法第242条)
不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。ただし、権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない。
要するにこの内装設備は建物に従として付合したものであり、付合させられた動産は不動産の所有者のものとなるため、相続税の財産評価上、賃借人の資産として計上しなくてよいことになる。
Ⅱ 有益費償還請求権としての評価
次に、賃借人が支出した有益費(設置した内装設備の経済価値)については、民法上、賃借人が建物所有者に対し有益費償還請求権という債権を有することとなる。(民法第608条第2項)
ならない。ただし、裁判所は、賃貸人の請求に賃借人が賃借物について有益費を支出したときは、賃貸人は、賃貸借の終了の時に、第196条第2項の規定に従い、その償還をしなければより、その償還について相当の期限を許与することができる。
賃貸借契約が終了したときには、賃借人がそれまでに支出した有益費について、賃貸人はその費用を償還しなければならないことになっている。
しかしながら、本事例の場合には賃貸借契約書で、
1.原状回復して明け渡す(この場合、有益費償還請求権は消滅)
2.設置した造作を無償で賃貸人に渡す(この場合、有益費償還請求権の放棄)
のどちらかとされており、この特約において有益費償還請求権は排除されており、これについても評価しないこととなる。
Ⅲ 裁決事例集№39-380頁
最後に本事例に関しては裁決事例集No.39-380頁が根拠となり有益な情報と思われるので、あえてその全文を掲載する。
有限会社の出資の評価に当たって、賃借人である評価会社が賃借建物に設置した附属設備は、工事内容及び賃貸借契約からみて有益費償還請求権を放棄していると認められるから、資産として有額評価することは相当でないとした事例
裁決事例集№39-380頁
有限会社の出資の評価に当たって、賃借人である評価会社が賃借建物(工場)に施した附属設備の工事内容は、壁及び床の断熱工事、塗装工事、電気工事、水道工事、ホイストのレール工事等であるが、これら附属設備は、賃借建物の従たるものとしてこれに付合したことが明らかであり、かつ、それ自体建物の構成部分となって独立した所有権の客体とならないから、評価会社の資産として計上することはできないというべきである。もっとも、そうすると本件建物の所有者は、本件附属設備相当額を不当利得する結果となるから、評価会社は、建物所有者に対し有益費償還請求権を有するはずである。
本件賃貸借契約によれば、建物内部改造費、造作、模様替えについて、借主は貸主に対してその買取り請求を一切行わないこと、原状回復は借主の費用負担において行うことが定められているので、評価会社は、有益費償還請求権を放棄したといえるから、本件附属設備の相続税評価額の計算に当たり、有益費償還請求権を有額評価することは相当でない。
平成2年1月22日裁決(※)
(注)
内容は、平成30年2月19日現在の法令等に基づいています。
本事例紹介は、会員の業務上の諸問題解決支援の一環として掲載しています。文中の税法の解釈等見解にわたる部分は、執筆者の私見(参考意見)ですので、実際の申告等税法の解釈適用に当たっては、会員ご本人の責任において行ってください。
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