元国税調査官・税理士の松嶋です。
今回のテーマは「再調査の制限と法的拘束力」です。
平成23年度改正で創設された税務調査手続き法制化により、以下の再調査の制限が設けらています。
第一項の通知(注:是認通知)をした後又は第二項の調査(実地の調査に限る。)の結果につき納税義務者から修正申告書若しくは期限後申告書の提出若しくは源泉徴収等による国税の納付があった後若しくは更正決定等をした後においても、当該職員は、新たに得られた情報に照らし非違があると認めるときは~当該通知を受け、又は修正申告書若しくは期限後申告書の提出若しくは源泉徴収等による国税の納付をし、若しくは更正決定等を受けた納税義務者に対し、質問検査等を行うことができる。
問題になる「新たに得られた情報」については、以下の解説があります。
このため、単に前回調査で確認しなかったというだけでは、再調査することができないことになります。
第10回/調査の再開と再調査の違い(税のしるべ 平成26年12月8日号)
なお、「新たに得られた情報」とは、調査において質問検査等を行った税務調査官が、通知又は説明を行った時点において有していた情報以外の情報をいうとされています。
具体的には、前回調査終了後に納税者本人から提出された申告書等、前回調査終了後に回付された資料情報等、前回調査終了後に実施された別の調査や官公署に対する情報提供要請、外国税務当局との情報交換により把握された情報等が該当するものと考えられます。
逆に、納税者本人に対する調査を担当した税務調査官が確認しようと思えば容易に確認できた部内情報については、その情報は「新たに得られた情報」には該当しないものとされており、調査官にも細心の注意が求められているようです。
一方で、前回調査で確認した科目であっても、必ず再調査が制限されるようなものではありません。
例えば、税務調査が終わってから、平均功績倍率を調査したものの、再調査に問題がないとした事例があります。
原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、本件当初調査は、平成26年12月9日に、■■■■■■■が請求人に対してその調査結果の内容を説明して終了したこと、その後、■■■■■■■は、役員退職給与の同業類似法人の選定の基準を定め、同基準に基づき抽出し把握した本件同業類似法人に関する情報に基づき、本件同業類似法人の平均功績倍率を算定したこと、■■■■■■■は、算定した平均功績倍率に照らせば、本件当初調査で把握した本件役員退職給与には損金の額に算入されない金額があると認めて、■■■■■■■と合同で本件再調査を行ったことが認められる。
以上の事実経過に照らせば、■■■■■■■は、本件当初調査が終了した後に本件同業類似法人の平均功績倍率を把握し、それに照らして、請求人に非違があると認めたことになるから、通則法第74条の11第6項に規定する「新たに得られた情報に照らし非違があると認めるとき」に該当するものというべきである。
したがって、本件再調査の手続には、本件各再更正処分等の取消事由となる違法はない。
なお、請求人は、本件当初調査において、本件役員退職給与が過大な退職給与の可能性がある旨の指摘をするなどしており、本件当初調査の際にも問題とされていた事項であったところ、通則法第74条の11第6項に規定する再調査の要件である新たに得られた情報がないにもかかわらず、本件再調査を行ったものである旨主張するが、本件当初調査の際にも問題とされていた事項であっても、それによって再調査の可否が左右されるものではない。
その他、この規定の適用上、注意すべきポイントが2つほどあります。
一つ目ですが、再調査の制限が、税目が異なる場合には適用されないとした事例があります。
この点、事実認定の余地はありますが、税目が異なる場合には、国税としても質問検査しているとは言えない部分もありますので、このような判断がなされる可能性は大きいと考えられます。
通則法第74条の11第6項の規定は、納税者の負担の軽減を図りつつ、適正公平な課税の確保を図る観点から、一旦ある納税者に対して調査が行われ、その後、更正決定等をすべきと認められない旨の通知をした後又は修正申告書等の提出等があった後若しくは更正決定等をした後においては、税務職員は、新たに得られた情報に照らし非違があると認める場合に再び質問検査等を行うことができることとしたものと解される。
3 手続通達5-6《法第74条の11第6項の規定の適用》は、通則法第74条の11第6項の「質問検査等」の意義について、前回の調査の対象となった納税義務者に対し、前回の調査に係る納税義務に関して、再び行う質問検査等をいう旨定めている。
4 そうすると、通則法第74条の11第6項の「質問検査等」に該当するか否かは、前回の調査の対象となった納税義務者に対し、前回の調査に係る納税義務に関して、その課税標準等又は税額等を認定する目的等で行われる質問検査等であるか否かにより判断することになる。
5 請求人は、平成27年、亡兄からの遺贈土地持分と請求人の買換資産(本件引継資産)を譲渡した。相続税の調査担当職員は、原処分庁所属の職員に対し、請求人の譲渡所得の金額の計算が、引継価額ではなく、実際の取得価額に基づいて行われていることを伝えた。
原処分庁所属の職員は、調査の際に、請求人に対し自主的に修正申告するように伝えてもらいたい旨依頼し、相続税調査担当職員は、税務代理人に対し、請求人の平成27年分の所得税等の申告を見直してほしい旨伝えた。
これは、手続通達1-2に定める「自発的な見直しを要請」したものであって、請求人の課税標準等又は税額等を認定する目的等で質問検査等が行われたものとはいえない。
6 所得税等調査担当職員の行為についてみると、
(1)本件引継資産に係る不動産所得の減価償却費及び同譲渡所得の取得費は、引継価額を基に計算することとなる旨、
(2)(1)の場合に措置法第39条の規定の適用がある旨、
(3)相続税第1更正処分に伴う(2)の適用金額への影響並びに
(4)本件各年分の更正決定等をすべきと認めた額を説明し、
併せて修正申告を勧奨したというもので、通則法第74条の11第2項に規定する「調査結果の内容(更正決定等をすべきと認めた額及びその理由を含む。)」の説明そのものであって、いずれも、請求人の課税標準等又は税額等を認定する目的等で質問検査等が行われたとはいえない。
7 相続税調査担当職員及び所得税等調査担当職員の各行為に、請求人の本件各年分の所得税等に関してその課税標準等又は税額等を認定する目的等で行われた質問検査等はないから、これらの各行為は通則法第74条の11第6項の規定に反しない。したがって、本件各更正処分が、通則法第74条の11第6項の規定に反し違法となることはない。
8 所得税等調査担当職員は、請求人の平成20年分の所得税の申告内容などを確認し、不動産所得の金額及び譲渡所得の金額の計算に必要となる本件引継資産の引継価額を確認(証拠資料の収集、要件事実の認定)し、再計算(法令の解釈適用)し、また、相続税第2更正処分の内容を確認(証拠資料の収集、要件事実の認定)して再計算(法令の解釈適用)しており、本件各更正処分はこれらの机上調査等の課税庁内部における調査を踏まえてされたと認められる。したがって、本件各更正処分は、通則法第24条に規定する「調査により」行われたものといえるから、「調査」を欠いた処分とはならない。
次に、従来から国税のFAQなどでは言われていましたが、「新たに得られた情報」について、それを説明する義務は国税にはありません。言い換えれば、説明がないことをもって、再調査を拒否することは違法ということです。
(税のしるべ 平成31年1月28日)
仮に本件調査に第6項の規定が適用されるとしても、第6項に規定する「新たに得られた情報」や本件調査が適法である根拠を調査担当職員が請求人に説明すべき旨を定める明文の規定はなく、その説明の実施が適法要件になるとは解されないから、こうした説明がなかったことをもって本件調査の調査手続に違法があるとの請求人の主張は、独自の見解に基づくものであって採用することができないとした。
理由の説明がないということは、実質的には再調査を差し止めることは難しいと考えられます。
なお、とある自称税務調査の専門家などは、「新たに得られた情報」がないと認められるような場合には、質問検査を拒否できる」といった主張をなさる方もいます。
しかし、このようなケースについて、税務調査を受ける納税者が質問検査拒否罪を免れるという規定はありません(通法128二)。
となると、慎重に交渉しつつ、再調査が難しいということを主張して折り合いをつける、というのが正しい対応と考えられます。
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