元国税調査官・税理士の松嶋です。
今回のテーマは「扶養是正と時効」です。
年末調整において、扶養控除や配偶者控除の誤りがあれば、国税から扶養是正に関する書面が届くなどして、是正を要請されます。
ここで問題になることの一つに、是正についての時効があります。
例えば、平成31年1月8日に書面が届き、内容を確認すると平成25年分の年末調整から誤りがあったとします。この誤りについて、更正の期間制限と同様に、5年の除斥期間で考えていいのか問題になります。
仮に、5年の除斥期間でよければ、平成25年は是正できません。
これに対する回答としては、源泉所得税の時効は更正決定の除斥期間ではなく、徴収権の消滅時効で見る必要がある、という点を押さえる必要があります。
国税の徴収を目的とする国の権利(~国税の徴収権~)は、その国税の法定納期限~から五年間行使しないことによって、時効により消滅する。
徴収権の消滅時効で見るのは、以下の通り源泉所得税が自動確定方式の国税だからです。
2 納税義務は、次の各号に掲げる国税~については、当該各号に定める時~に成立する。
二 源泉徴収による所得税 利子、配当、給与、報酬、料金その他源泉徴収をすべきものとされている所得の支払の時~
3 納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税は、次に掲げる国税とする~
二 源泉徴収による国税~
ここでいう「確定」とは、税額の確定を意味しますので、申告納税方式であれば申告や更正等を意味します。
しかし、源泉徴収は支払いと同時に自動的に確定することになりますから、更正等は必要ありません。このため、更正等の除斥期間の対象にもなりません。
この点、源泉所得税については、以下の通り更正処分ではなく納税告知という手続きからスタートし、納税の告知をすることで消滅時効がストップし、再度5年間徴収されることになります。
税務署長は、国税に関する法律の規定により次に掲げる国税~を徴収しようとするときは、納税の告知をしなければならない~
二 源泉徴収による国税でその法定納期限までに納付されなかったもの
国税の徴収権の時効は、次の各号に掲げる処分に係る部分の国税については、その処分の効力が生じた時に中断し、当該各号に掲げる期間を経過した時から更に進行する~
三 納税に関する告知 その告知に指定された納付に関する期限までの期間
話を戻しますが、法定納期限から5年間徴収できるとされていますので、源泉所得税については、法定納期限である各月10日、又は納期の特例の適用を受けている場合には、7月10日ないし1月20日からそれぞれ5年間徴収できることになります。
結果として、上記の例でいえば、毎月納付前提とすると、平成31年1月から5年前、平成26年1月10日納期限の源泉所得税については、国税が納税の告知により納税させることができることになります。
(2) 納税の告知の法的性質は税額の確定した国税債権につき納期限を指定して納税義務者に履行を請求する行為、すなわち徴収処分というべきであって、納税額確定の手続である更正についての期間の制限は徴収処分たる右納税の告知をなしうる期間を制限したものといえないことはもとより、支払者の源泉徴収にかかる所得税納税義務は既に当該所得の支払の時に確定しているものである以上、その履行の請求たる右納税の告知は国税通則法72条により国税の徴収権が時効で消滅するまではこれをなしうるものと解するのが相当である。
(3) 源泉徴収にかかる国税について支払者が納税義務(徴収、納付義務)を負担するとは、すなわち受給者において源泉納税義務を負うことにほかならず、両者は表裏をなす関係にあり、支払者の納税義務が支払と同時に成立、確定するのと同様に受給者の源泉納税義務もその時、成立、確定するものというべきであって、右源泉納税義務は確定申告、更正等の手続(申告納税方式)によって確定される所得税額とは別個に成立、確定すべき性質のものであるから、受給者の年税について更正期間が経過したとしても、既に成立、確定している受給者の源泉納税義務及び支払者の納税義務(徴収、納付義務)が、原告主張のように消滅する等の影響を受けるものとはいえないのである。
この点、年末調整済の源泉所得税については、以下の規定により再年末調整をして年税額を算定した上、支払額に応じて納期限を按分することになります。
過年分の課税漏れ給与等(年末調整を行うべき給与等に限る。)に対する源泉徴収税額は、当該給与等の額と当該年分の課税済の給与等との合計額について計算した~税額から当該課税済の給与等の額について計算した~税額~を控除して計算して差し支えない。
(注)上記の場合において、延滞税及び不納付加算税の額の計算の基礎となる各月ごとの課税漏れ給与等に係る税額は、上記により徴収すべき税額に、その年分の当該課税漏れ給与等の総額のうちに各月ごとの課税漏れ給与等の額の占める割合を乗じて求めた額とする。
ところで、扶養是正で課税もれの源泉所得税があった従業員について、その従業員が仮に確定申告していた場合、その処理はどうなるか、これも問題になります。
確実に押さえておくべきは、従業員が確定申告をしていることをもって、源泉徴収義務者が課税もれの源泉所得税を納めないと主張することはできないということです。
以下の通り、国と直接の租税債権債務関係に立つ者は源泉徴収義務者であるからです。
源泉徴収制度に関して、国と直接の租税債権債務関係に立つ者は源泉徴収義務者であり国と給与等の受給者の間には租税債権債務関係は生じないものと解されている。
したがって、給与についてその支払者が行った所得税の源泉徴収に誤りがあり、徴収額が不足する場合には、税務署長は、所得税法第221条(源泉徴収に係る所得税の徴収)の規定により源泉徴収義務者たる給与の支払者からその不足分を徴収し、給与の支払者は、同法第222条(不徴収税額の支払金額からの控除及び支払請求等)の規定により源泉納税義務者たる給与の受給者にその不足分を請求することになる。
このため、いったんは支払者で不足額を納税し、その後不足分を従業員に請求してから、従業員が更正の請求をするという流れになります。
先の例でいえば、平成26年1月に納付する、平成25年12月の源泉所得税は、平成25年の確定申告期限から5年の平成31年3月15日までに更正の請求が必要になると考えられます。
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