【税務調査交渉及び見落としがちな税務判断】成年後見人の申告期限

元国税調査官・税理士の松嶋です。
今回のテーマは「成年後見人の申告期限」です。

先日、相談を受けた事例ですが、以下の場合の申告期限がいつになるか、ちょっと考えて見てください。

1 相続人は認知症
2 認知症のため、成年後見人を選任中
3 選任中に被相続人が死亡

正解は、後見人が選任された日から10か月となります。

TAINS 相続事例千葉会030032
千葉県税理士会相談事例Q&A0032 相続税 相続税の申告期限について
【千葉県税理士界 平成25年8月20日第149号掲載】

「相続税の申告期限について」

【Q】
認知症の相続人について、相続開始8ヶ月後に後見人を選任しました。その相続人は全く通常の判断能力がありません。
この場合の相続税の申告期限は何時になるのでしょうか?
また相続人の中には代襲相続人となる幼児がいますが、この幼児の申告期限は通常通りでいいのですか?

【A】
まず認知症のため全く判断能力を欠いているために後見人を選任した場合の相続税の申告期限の起算日は、
その後見人が選任された日になります。

未成年である幼児については特別代理人の選任を受ける必要がありますが、その申告期限の起算日については特別代理人がその相続の開始があった事を知った日となります。

【関係法令】
相法27、相基通27-4

(注)
相談事例Q&Aは、会員の業務上の諸問題解決支援の一環として掲載しています。
文中の意見にわたる部分は、回答者の見解ですので、実際の申告等、税法の解釈適用にあたっては、会員ご本人の責任において行ってください。
【千葉県税理士会 会員相談室提供】

具体的な根拠規定は、以下となります。

相続税法基本通達27-4
(「相続の開始があったことを知った日」の意義)

法第27条第1項及び第2項に規定する「相続の開始があったことを知った日」とは、自己のために相続の開始があったことを知った日をいうのであるが、次に掲げる者については、次に掲げる日をいうものとして取り扱うものとする~
(7)相続開始の事実を知ることのできる弁識能力のない幼児等 法定代理人がその相続の開始のあったことを知った日
(相続開始の時に法定代理人がないときは、後見人の選任された日)

なお、後見人が決まらなければ、申告期限は到来しませんが、国税が更正することは可能と考えられます。
加えて、更正できるということは、除斥期間も経過すると考えられます。

最高裁平成18年7月14日判決(Z999-5089)

相続税法27条1項は、相続又は遺贈により財産を取得した者について、納付すべき相続税額があるときに相続税の申告書の提出義務が発生することを前提として、その申告書の提出期限を「その相続の開始があったことを知った日の翌日から6月以内」と定めているものと解するのが相当である。
上記の「その相続の開始があったことを知った日」とは、自己のために相続の開始があったことを知った日を意味し、意思無能力者については、法定代理人がその相続の開始のあったことを知った日がこれに当たり、相続開始の時に法定代理人がないときは後見人の選任された日がこれに当たると解すべきであるが(相続税法基本通達27-4(7)参照)、意思無能力者であっても、納付すべき相続税額がある以上、法定代理人又は後見人の有無にかかわらず、申告書の提出義務は発生しているというべきであって、法定代理人又は後見人がないときは、その期限が到来しないというにすぎない。

相続税法35条2項1号は、申告書の提出期限とかかわりなく、被相続人が死亡した日の翌日から6か月を経過すれば税務署長は相続税額の決定をすることができる旨を定めたものと解すべきであり、同号は、意思無能力者に対しても適用されるというべきである。

そうすると、本件申告時において、Bに相続税の申告書の提出義務が発生していなかったということはできず、昭和63年3月8日の経過後においてBの相続税の申告書が提出されていなかった場合に、所轄税務署長が相続税法35条2項1号に基づいてBの税額を決定することがなかったということもできない。したがって、本件申告に基づく本件納付がBの利益にかなうものではなかったということはできず、上告人の事務管理に基づく費用償還請求を直ちに否定することはできない。

このように、成年後見人は後見人の存在が重要になります。実際のところ、申告の効力についても、代理に準じ以下のような取扱いとなっています。

2 代理人の行為と申告の効力

民法第99条《代理行為の要件及び効果》第1項は、「代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。」と規定し、同条第2項は、「前項の規定は、第三者が代理人に対してした意思表示について準用する。」と規定しており、代理人による申告の効力についても同様に解される。

ちなみに、代理人としての表示がない場合にあっても、税務官庁において、代理人が本人のためにすることを知り、又は知ることができたときは、民法第99条第1項が準用される(同法第100条)ことから、代理人の行為として明示されていた場合と同様に、その申告の効力が生じることとなる(青森地裁S45.7.16弘前支部判決、仙台高裁S46.4.14秋田支部判決)。

3 代理人に係る租税法上の規定

代理人による申告の効力は、上記2に記載のとおりであるところ、法令等においても、その効力を前提とする次の規定がおかれている。

(1) 通則法第124条《書類提出者の氏名及び住所の記載等》

申告書等の書類を代理人によって提出する場合は、
(1)納税者の住所・氏名、
(2)代理人の住所・氏名を記載するとともに、
(3)代理権限を有することを証する書面を添付し(同条(1))、
(4)代理人が押印(本人が押印するのは、代理人等によらない場合)しなければならない(同条(2))。

成年後見人が法定代理人である場合の添付書類としては、登記事項証明書(東京法務局民行政部後見登録課)又は、後見開始の審判に係る審判書の写し(必要箇所の抜粋可)となる。

(2) 通則法基本通達(徴収部関係)第12条関係3《無能力者に対する送達》

送達を受けるべき者が無能力者である場合においても、その者の住所等に書類を送達するものとする。
ただし、その者の法定代理人(※)が明らかな場合には、その法定代理人の住所等に書類を送達するものとする。

※ 法令の規定により、本人の意思によらずに定められる代理人をいう。
本通達では、民法25条《不在者の財産管理》、818条《親権者》、952条《相続財産の管理人の選任》等を参照している。


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