元国税調査官・税理士の松嶋です。
今回のテーマは「『一構え』の解釈」です。
居住用財産の3千万円控除(措法35)については、以下の通り居住の用に供する家屋のうち、いずれか一の家屋についてのみ特例の対象になるとされています。
(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例)2項
~家屋は、個人がその居住の用に供している家屋~とし、その者がその居住の用に供している家屋を二以上有する場合には、これらの家屋のうち、その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋に限るものとする。
実務上、一の家屋についてよく問題になる訳ですが、この一の家屋とは原則として一棟ごとの判断になり、2棟以上の家屋が一構えであれば、その一構えの家屋をいうこととされています。
個人がその居住の用に供している家屋を二以上有する場合には、本件特例の適用対象となる家屋は、主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋に限る旨規定しているところ、本件特例の適用対象となる家屋の判定に当たり、二棟以上の家屋が併せて一構えの家屋であるといえるか否かについては、
まず、それぞれの家屋の規模、構造、間取り、設備、各家屋間の距離等の客観的状況によって判断すべきであり、個人及びその家族の使用状況等の主観的事情は二次的に考慮すべき要素にすぎないものと解するのが相当である。
したがって、単にこれらの家屋がその者及びその者と同居することが通常である親族等によって機能的に一体として居住の用に供されているのみでは不十分であり、家屋の構造規模、設備等の状況から判断していずれか又はそれぞれが独立の居住用家屋としては機能できないものでなければならない。
そうすると、これらの家屋がそれぞれ独立の家屋としての機能を有する場合には、これらの家屋を併せて一構えの家屋であるとは認められず、その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋に限り、本件特例の適用対象となるというべきである。
本件家屋の規模、構造、間取り、設備、各家屋間の距離並びに通常考えられる用法及び機能等を考慮すれば、本件A家屋と、本件BC家屋とは、それぞれ別個独立の家屋であると認められ、これらの各家屋を併せて一構えの家屋であるということはできない。
そして、請求人は、妻及び長男と共に本件A家屋で日常生活を営んでいたのに対し、本件BC家屋は、もともと飲食店の店舗等として使用し、廃業後は、一部に荷物等をおいて物置に使用していたにすぎないから、請求人が主として居住の用に供していた家屋は本件A家屋であると認められ、本件BC家屋は本件特例の適用対象となる居住用家屋には該当しない~
ここでいう一構えとは、二棟以上の建物が「一体として一の機能を有する」家屋であるかどうかという判断になると考えられます。
詳細、TKC税務Q&A「父所有の土地の上にある父名義の建物と子供名義の建物の2棟が一構えの家屋と認められる場合において、これらの土地と建物を一括譲渡した場合」をご参照ください。
上記の裁決において、一構えであるかの判断基準として、構造や設備などの客観的な条件で判断し、主観的事情は二次的に考慮すべき要素に過ぎないとされている点は注意が必要です。
「生計を一にする」といった判断は、同居以外の主観的な事情も考慮する場合がありますが、居住用財産の特例については二次的な判断にしかなりえませんから、頭を切り替えなければなりません。
ところで、以前相談を受けた事例ですが、隣通しでマンションの二部屋を親子で借り、子が親の世話をしており、そのマンションを売却するとすれば居住用財産の3千万円控除を受けられるか、という相談がありました。
ベランダのし切りは取り壊し、その二部屋は玄関を通らず行き来することができましたが、トイレや風呂などの設備はマンションの二部屋ですので当然ながらそれぞれの部屋にあります。このため、このような状態で、一構えの家屋と見るのは極めて困難です。
とりわけ、以下のような裁決がありますので、独立の家屋と見ることができるマンションの二部屋を一構えと見るのは極めて困難と考えられます。
二以上の家屋がそれぞれ独立の家屋としての機能を有する場合には、これらの家屋が併せて一構えの一の家屋であるとは認められず、その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋に限り、本件特例の適用対象となるというべきである。
本件甲家屋及び乙家屋は、いずれも複数の居室並びに台所、トイレ、風呂及び玄関があり、それぞれ電気、ガス及び水道の設備を有し、電気及び水道の各メーターを個別に設置していたこと、また、それぞれが接合されておらず、1メートル程度離れていたことからすると、それぞれ独立の家屋として機能を有することは明らかであり、併せて一構えの一の家屋とはならない。そうすると、本件特例の適用対象となる家屋は、請求人が主として居住の用に供していた甲家屋に限られる。
実際のところ、このようなケースについて、一構えであると主張するとすれば、以下の見解しかないでしょう。
■Q
Xは、15年前に2DKのマンション1戸(302号室)を購入して居住していましたが、その後子供らが成長し、従来の住宅の部屋数だけでは狭くなりました。
そこで、5年前にその住宅の真横に当たるマンション1戸(303号室)をさらに購入し、2区画のマンションを一体として使用してきました。
このほど、Xは2区画のマンションを一括して売却しました。
この場合、全部について「3,000万円特別控除(措法35)」の特例を受けることができるでしょうか?
■A
全部について「3,000万円特別控除」の特例の適用を受けることができる。
〈解説〉
2つの区画の建物が隣接しており、かつ、これらの建物がその家族の構成若しくは生計の状況又はこれらの建物の使用状況等からみて、社会通念上、一戸の家屋として機能していると認められるような場合には、「特例」の適用を受けることができるものと考える。
この見解は元税務署長の見解ですので、それなりの権威はありますが、家族の構成など主観的な事情に着目しての回答ですので、現状の傾向とは意味合いが違います。
このため、このような見解はあるにせよ、やはり実際のところは、国税と厳しい交渉になると考えられます。
いずれにせよ、一構えとは、一体で一の機能を有するという解釈になりますので、その適用は常識に則って客観的に判断する必要があります。
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