【税務調査交渉及び見落としがちな税務判断】実況区分の取扱い

元国税調査官・税理士の松嶋です。
今回のテーマは「実況区分の取扱い」です。

実況区分という言葉を聞いたことがある方も多いかと思います。
この実況区分は、国税が納税者を管理する際にグループ分けしている区分であり、第1グループから第3グループまであります。

第1グループは、以下のようなグループを言います。
簡単に言えば、優良申告法人のような法人が該当します。

法人課税事務提要(事務手続編) 平成13年7月(平成17年6月改正) 
国税庁法人課税課 【共通関係】第2章 法人等の管理等 第3節 実況区分等
(TAINS 法人課税事務提要H120630-02-03)

過去の申告事績及び調査事績から概ね適正な申告を継続していると認められる法人については、第1グループに区分して管理する。

イ 判定

第1グループに判定する法人は、次に掲げる基準のすべてに該当する法人(第3グループに判定された法人を除く。)とする。

(イ) ~判定対象事業年度~において継続して青色申告を行っていること。
(ロ) 判定対象事業年度において継続して期限内申告を行っていること。
(ハ) 判定対象事業年度内の各事業年度の申告所得金額が、概ね、過去5年間における当該国税局管内の有所得法人1法人当たり平均申告所得金額以上の水準であること~
(ニ) 実地調査において当該法人の事業等の実態が的確に把握され、かつ不正計算及び多額な更正等がないこと。

一方で、第3グループは以下のような悪質と判断される法人を言います。

法人課税事務提要(事務手続編)平成13年7月(平成17年6月改正)
国税庁法人課税課 【共通関係】第2章 法人等の管理等 第3節 実況区分等
(TAINS 法人課税事務提要H120630-02-03)

過去の申告事績及び調査事績並びに資料情報から不正計算が想定されるため、社会経済情勢の変化に対応した的確な調査事務の運営を図るため又は適正な課税の実現若しくは納税秩序の維持等を図るため、特に注視する必要があると認められる法人については、第3グループに区分して管理する。

イ 判定

第3グループに判定する法人は、原則として、次に掲げる基準のいずれかに該当する法人とする。

(イ) 実地調査の結果、常習的に多額の不正計算を行っていることが把握された法人

(ロ) 実地調査において不正発見に至らなかったが、不審点が残り多額の不正計算が潜在すると想定されるため、継続して注視する必要があると認められる法人

(ハ) 代表者等に関する探聞情報等から多額の不正計算が行われていることが想定されるため、特に注視する必要があると認められる法人

(ニ) 重要資料等があり、かつ当該重要資料等以外に調査着手及び調査展開を効果的に行うための資料情報を継続して収集・蓄積する必要があると認められる法人

(ホ) 取引先等他の者の不正計算に加担又は援助していると認められる法人のうち、取引の正常化及び有効な資料情報の把握のため、特に注視する必要があると認められる法人

(ヘ) 事業規模等が急激に膨張しているため、特に注視する必要があると認められる法人

(ト) 他署管内に多数の事業所等を有しているため、特に注視する必要があると認められる法人

(チ) 同族グループ法人のうち、広域的に事業を展開しているため、特に注視する必要があると認められる法人

(リ) 海外取引法人のうち、海外取引の規模等からみて特に注視する必要があると認められる法人

(ヌ) 大口決定等を行った無申告常習法人

(ル) 多額の使途不明金が把握された法人

(ヲ) 暴力団に関係がある法人

(ワ) 調査困難等法人

(カ) その他調査事務の的確な運営を図る等のため特に注視する必要があると認められる法人

第2グループは両者の中間の法人で、いわゆる一般的な法人を意味します。
この実況区分が重要になるのは、それによって管理状況、すなわち調査のされる頻度などが異なるからです。
第1グループと第3グループの管理は、以下のように大きく異なっています。

法人課税事務提要(事務手続編) 平成13年7月(平成17年6月改正)
国税庁法人課税課 【共通関係】第2章 法人等の管理等 第3節 実況区分等
(TAINS 法人課税事務提要H120630-02-03)

ロ 管理
~第1グループ法人~は、次により管理を行う。
     
(イ) 第1グループ法人は、原則として~統括官等~が管理する。

(ロ) 統括官等は、第1グループ法人について、継続的に申告内容及び資料情報の分析・検討を行い、判定後における法人実態の的確な把握に努める。

ハ 接触
第1グループ法人に対する接触は、原則として、次により実施する。

(イ) 判定後の法人実態が変化しその後の状況について確認を要すると認められる場合等は、事案に応じ、実地調査、実態調査又は書面照会等を実施する。

(ロ) (イ)のほか、申告内容又は資料情報から大口・悪質な不正計算が想定される場合等は、時機を失することなく、深度ある調査を実施する。

法人課税事務提要(事務手続編) 平成13年7月(平成17年6月改正)
国税庁法人課税課 【共通関係】第2章 法人等の管理等 第3節 実況区分等
(TAINS 法人課税事務提要H120630-02-03)

ロ 管理
~第3グループ法人~は、次により管理を行う。

(イ) 第3グループ法人の管理に当たっては、個々の法人ごとに、その判定理由及び管理の重点事項を把握・整理し、申告内容の分析・検討を継続して行うとともに、積極的に資料情報の収集・蓄積を行う。

(ロ) (イ)のほか、早期に担当者を定めて調査着手及び調査展開を効果的に行うための予備的検討を分担させることが適当と認められる事案については、次により深度ある管理を図るものとする。

A 統括官等は、当該事案について適宜に担当者を定めて長期指令を行い、当該担当者に当該事案管理の具体的な方策を企画させるとともに、必要に応じ、当該管理事務に要する日数を付与するものとする。

B Aの長期指令を受けた担当者は、速やかに当該事案に係る過去の申告事績、調査事績、他の部門等における有効資料の有無、代表者等の所得及び資産の異動状況等の確認・分析・検討を行うとともに、機動調査担当国税調査官に資料情報の収集を依頼することが適当と認められる事項については、その依頼について統括官の指示を仰ぐものとする

C Aの長期指令を行った統括官等は、必要に応じ、当該事案の調査に当たり有効な資料情報の幅広い収集について他の職員に周知するなどして、その充実を図ることにも配意する。

ハ 接触
第3グループ法人に対する接触に当たっては、原則として、深度ある調査を実施する。

第3グループは深度ある調査を実施するとされていますので、このグループに該当すると調査は厳しくかつ長いものになります。
重加算税を賦課されると調査の頻度が下がる、という都市伝説は、ここから来ています。

ただし、上記をご覧いただくと分かりますが、重加算税案件だけが第3グループに落とされる訳ではありません。
このため、あらかじめこの基準は把握しておくと都合がいいでしょう。

とは言え、現場の調査官はこの実況区分の入力をあまりまじめに行っていません。
私の経験では、「是認出なければ第3グループ」という指導が上司からありました。
加えて、仮に第3グループの要件に該当しても、変えないことも多々ありました。

ところで、この第3グループに関し、第3グループから復帰する方法として、連続2回税務調査で不正がなければいい、という風評があります。
この風評は、どうやら以下を前提としているようです。

個別通達「重点管理対象法人」の管理要領について(指示)東京国税局長 平成16年6月18日
(TAINS H160618東京国税局課二法392)

4 重点管理対象法人の見直し

(1) 指定解除基準
重点管理対象法人が、次のいずれかに該当することとなった場合には、指定を解除する。

イ 原則として連続する2回の実地調査の結果、不正計算が把握されず、代表者の納税意識あるいは法人の経理体制等から判断して、今後不正計算を行うことが想定しがたい法人
ロ 休業・清算中であるなど申告事績から判断して明らかに管理の必要がないと認められる法人

しかし、これは正しくありません。第3グループと重点管理対象法人は違うからです。

重点管理対象法人は税務署版のリョウチョウと言われる特調班が調査するような、悪質性がとりわけ高いと判断される法人を言います。

このため、第3グループの法人は重点管理対象法人よりはるかに数が多いですし、税務調査で選定される確率はもちろん、税務調査の難易度も第3グループより大きくなります。

このような風説もありますが、いずれにしても不正取引を行っていいことはありませんので適正申告に努めるべきです。
加えて、本来は課税されないのに、国税の交渉で重加算税を賦課されるようないわゆるネゴ重加も百害あって一利なしですから、このようなケースはとことん交渉しましょう。


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