元国税調査官・税理士の松嶋です。
今回のテーマは「一括取得した土地建物の取得価額の按分」です。
土地付き建物を購入する場合の契約書では、土地と建物の金額を明確に分けていないこともよくあります。
この場合、税務上は、合理的な区分で土地と建物に区分する必要がありますが、合理的と見られない場合には、建物の減価償却が否認されることがあります。
何をもって合理的か、明確な基準はありませんが、一括取得の場合の建物の取得価額の計算方法として、以下の3つの方法があると言われています。
- 直接法
売主の帳簿等に記載された販売価額、売主が発行する家屋の譲渡対価証明書の価額、消費税額から逆算した価額、新築時の工事原価、固定資産税評価額及び相続税評価額などを基に、建物の取得価額を直接算出する方法。 - 差引法
近隣地の売買実例価額や鑑定評価額などを基礎として、土地の価額を算出し、全代金から土地の価額を差し引いた残額を建物の取得価額として算出する方法。 - 按分法
何らかの方法により算出した土地と建物の価額比で代金総額を土地取得価額と建物取得価額に按分して建物取得価額を算出する方法。
上記のうち、最も合理的な方法は、3の按分法と言われます。
値引き販売なども多くありますので、譲渡金額が時価の合計額と一致するとは言えないことから、例えば直接法によれば、時価として算定した建物の価額を譲渡金額から差し引いて計算される土地の金額について、適正な土地の時価を反映しているとは言えないと考えられるからです。
同様に、差引法についても、その逆で建物の正確な時価が反映されない可能性があると言われます。(参考:四方田彰「土地・建物等の一括取得と取得価額の按分の留意点」(税理2016.4))
実際のところ、直接法に類似した考え方として、譲渡所得の計算において用いられる「建物の標準的な建築価額表」を基礎として計算する方法については、以下のような限定される場合しか用いることができないと説明されています。
このため、取得した土地建物の取得価額の按分には使えないと考えられます。
建物の標準的な建築価額表による建物の取得価額の計算は、建物の取得価額が分からない場合に行うものですので、建物の取得価額が契約書で区分されている場合や建物に係る消費税額から建物の取得価額を計算できる場合のように実際の建物の取得価額が明らかな場合には、その実際の取得価額により譲渡所得の金額を計算することになります。
また、この建物の標準的な建築価額表は、原則として、譲渡所得の計算を行う場合にのみ使用します。
以上を踏まえると、実務上は按分法を適用することを第一優先に考えるべきですが、問題になるのは按分の基準についてです。
これについては、時価と認められる基準値は多いものの、固定資産税評価額を使うべきとする事例が圧倒的に多いです。
鑑定評価による価額を用いたあん分法も一応合理性が認められる方法であるところ、請求人が用いた不動産鑑定士の評価額の計算が本件建物と構造の異なる建物に基づく査定を行っているなど必ずしも合理性のある算出方法となっていない一方、原処分庁が用いた土地及び家屋の固定資産税評価額は、いずれも同一の評価機関により算定されたものであり、
かつ、同一時期の時価を反映しているものであることから合理性があるというべきである。よって、固定資産税評価額の比率によってあん分することが相当である。
理論上は、固定資産税評価額が按分法における唯一の基準値ではないと考えられますが、同一の機関で算定しているという合理性を裁決などでは評価する傾向が強いため、固定資産税評価額を使うことを第一に考える必要があります。
審査請求人は土地の価額を相続税評価額(路線価)を基礎として算出すべき旨を主張し、原処分庁は土地及び建物の固定資産税評価額を基礎として算出すべき旨主張しているが、相続税評価額は、土地については国税当局の算定した路線価等により、建物については地方公共団体が算定した固定資産税評価額を基礎とするのに対し、
固定資産税評価額は、土地、建物ともに地方公共団体で算定していることからみて、特にあん分法の場合には、土地、建物双方を同一の機関で算定している固定資産税評価額を基礎とする方がより合理的である。
なお、固定資産税評価額による按分が否定された事案が近年ありました。
これは、「改修工事が実施されていたにもかかわらず、当該建物の固定資産税評価額にはこれらの時価の増加が反映されていない」という事情から、固定資産税評価額が時価を反映していないため不合理とされたものです。
請求人は、売買により一括取得した土地及び建物について、まず当該土地の路線価に地積を乗じることにより当該土地の売買代金相当額を算出し、これを売買代金の総額から差し引くことにより当該建物の売買代金相当額を算出する方法(本件差引法)により算出すべきである旨主張する。
しかしながら、本件差引法を用いて土地及び建物の売買代金相当額を区分した場合、土地の売買代金相当額に反映されるべき価額が反映されず、土地の売買代金相当額が客観的な時価に比して低額になる一方、当該価額が建物の売買代金相当額に転嫁され、建物の売買代金相当額が客観的な時価に比して高額になるという看過し難い不均衡が生じるから、本件差引法は合理的とは認められない。
一方、原処分庁は、当該土地及び建物の各売買代金相当額は、土地及び建物の売買代金総額を各資産の固定資産税評価額比によりあん分する方法(固定資産税評価額比あん分法)により算出すべきである旨主張するところ、確かに、固定資産税評価額比は、土地及び建物の価額比を推認する手がかりとして一般的な合理性を有するものであるから、固定資産税評価額比あん分法は、一般的には合理的な算定方法であると認められる。
しかしながら、本件の一部の建物には時価を増加させると認められる改修工事が実施されていたにもかかわらず、当該建物の固定資産税評価額にはこれらの時価の増加が反映されていない。
他方、当該一部の建物及びこれと一括取得された土地について請求人が提出した不動産鑑定評価書における土地及び建物の積算価格の比は、土地及び建物の時価の価額比を推認する手がかりとして一定の合理性が認められる上、改修工事の実施を踏まえたものであり、当該一部の土地・建物については、固定資産税評価額比あん分法よりも当該積算価格比によりあん分する方法を用いることがより合理的であると認められる。
したがって、当該一部の土地・建物については当該積算価格比によりあん分する方法を、他の土地・建物については、固定資産税評価額比あん分法を用いるのが相当である。
このため、基本は固定資産税評価額、という前提もケースバイケースの対応が必要であり、相場の確認はもちろん、固定資産税評価額の前提が問題ないか、その確認も必要と言えます。
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