元国税調査官・税理士の松嶋です。
今回のテーマは「旅費規定と実費精算」です。
出張したために通常よりも余分な経費が発生するために支給が認められる日当については、以下の規定で非課税とされます。
次に掲げる所得については、所得税を課さない。
四 給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし、若しくは転任に伴う転居のための旅行をした場合又は就職若しくは退職をした者若しくは死亡による退職をした者の遺族がこれらに伴う転居のための旅行をした場合に、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるもの
ご覧いただくと分かりますが、「旅行に必要な支出に充てるため支給される金品」が非課税の対象になりますので、手当てに当たる日当だけがこの取扱いの対象になる訳ではありません。
実費精算がある意味当たり前となっている、旅費や宿泊費についても、この規定の対象になると考えられます。
問
当社では、出張旅費や日当に関する社内規定はありません。今回役員と使用人か出張することになり、役員には2万円の宿泊費と1万5,000円の日当を、社員には1万5,000円の宿泊費と1万円の日当を渡切りで支給し、実質精算はしていません。
税務上の取扱いはどうなりますか。
答
出張旅費や日当に関する社内規定、いわゆる旅費規定がないということですが、その支払が役員及び使用人のすべてを通じて適切なバランスが保たれた基準によってなされたものであり、通常必要と認められる金額であれば、非課税となります。
説明
(前略)
非課税の旅費とは実費弁償部分となりますが、実務上はすべてを実費精算することは難しいと思われますので~実費精算しなくても非課税として取り扱っても差し支えないことになっています~
日当についても妥当しますが、この非課税規定が認められている理由としては、出張者が支出する全ての経費について実費精算するとなると、会社の処理が煩雑になるからです。
このため、宿泊費や旅費についても、実費精算の手間を削減するため、一定の規定に則った基準で支給することが認められます。
この点、インボイスにおいても、実費精算か否かを問わず、出張旅費特例の対象とすることができるとされています。
問107-2(実費精算の出張旅費等)
当社は、社員が出張した場合、旅費規程や日当規程に基づき出張旅費や日当を支払っています。この際、実際にかかった費用に基づき精算を行うため、社員からは、支払の際に受け取った適格請求書等を徴求することとしています。この実費に係る金額について、帳簿のみの保存(従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等)により仕入税額控除を行ってもよいでしょうか。【令和6年4月追加】
【答】
社員に支給する出張旅費、宿泊費、日当等のうち、その旅行に通常必要であると認められる
部分の金額については、課税仕入れに係る支払対価の額に該当するものとして取り扱われ、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます(消法30(7)、消令49(1)一ニ、消規15の4二、基通11-6-4)。
この社員に対する支給には、概算払によるもののほか、実費精算されるものも含まれますので、実費精算に係るものであっても、その旅行に通常必要であると認められる部分の金額については、帳簿のみの保存で仕入税額控除を行うことができます。
(注)帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる「その旅行に通常必要であると認められる部分」については、所得税基本通達9-3に基づき判定しますので、所得税が非課税となる範囲内で、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められることになります。
(参考)実費精算が貴社により用務先へ直接対価を支払っているものと同視し得る場合には、通常必要と認められる範囲か否かにかかわらず、他の課税仕入れと同様、一定の事項を記載した帳簿及び社員の方から徴求した適格請求書等の保存により仕入税額控除を行うこととなります。
その際、3万円未満の公共交通機関による旅客の運送など、一定の課税仕入れに当たるのであれば、当該帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます(消法30(7)、消令49(1)一イ、70の9(2)一)。
となれば、適正な基準を作ることで、実費以上の旅費や宿泊費を出せることになり、節税効果が見込めます。
この場合の基準ですが、以下の支給基準は満たす必要があります。
法第9条第1項第4号の規定により非課税とされる金品は、同号に規定する旅行をした者に対して使用者等からその旅行に必要な運賃、宿泊料、移転料等の支出に充てるものとして支給される金品のうち、その旅行の目的、目的地、行路若しくは期間の長短、宿泊の要否、旅行者の職務内容及び地位等からみて、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内の金品をいうのであるが、当該範囲内の金品に該当するかどうかの判定に当たっては、次に掲げる事項を勘案するものとする。
- その支給額が、その支給をする使用者等の役員及び使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものであるかどうか。
- その支給額が、その支給をする使用者等と同業種、同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるものであるかどうか。
なお、旅費規定がなくともこの取扱いの対象になりますし、損金にもなりますが、税務調査対策を踏まえれば文書により保存することが妥当と考えられます。
本問の場合には、その支給基準を明確にする為に、社内規定を文書化する必要があります~旅費規定がなく、渡切りの出張旅費を支給した場合であっても、その金額が旅費等の金額として相当であると認められる場合には、その金額は旅費として損金処理できます。
もちろん、旅費規定があったとしても、社会通念上相当と言えない場合には否認されますので、注意してください。
原告は、旅費規定の内容が民法第90条(公序良俗違反)に該当しないかぎり、税務官庁がこれを否認できない、と主張するが、まったく独自の見解であって、採用できない。
そして成立に争いない乙第8、第9号証、乙第10号証の1ないし5、弁論の全趣旨より真正に成立したと認める乙第1ないし第7号証及び証人山田和男の証言を総合すると、日当のうち1,000円を越える部分を否認した被告の判断は右にのべた意味において正当であったものと認められる。
したがって、本件更正決定には、原告の主張する違法性を認めることができないので、その取消をもとめる原告の本訴請求は失当であるから棄却し、主文のとおり判決する
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