元国税調査官・税理士の松嶋です。
今回のテーマは「同族関係者だけで占める会社の社員旅行の取扱い」です。
法人税の節税の王道である社員旅行については、以下の要件を満たす場合、原則として損金算入が認められるとされています。
(課税しない経的利益・・・・・使用者が負担するレクリエーションの費用)
使用者が役員又は使用人のレクリエーションのために社会通念上一般的に行われていると認められる会食、旅行、演芸会、運動会等の行事の費用を負担することにより、これらの行事に参加した役員又は使用人が受ける経済的利益については、使用者が、当該行事に参加しなかった役員又は使用人(使用者の業務の必要に基づき参加できなかった者を除く。)に対しその参加に代えて金銭を支給する場合又は役員だけを対象として当該行事の費用を負担する場合を除き、課税しなくて差し支えない。
(課税しない経済的利益・・・・・使用者が負担するレクリエーションの費用)の運用について(法令解釈通達)
使用者が、従業員等のレクリエーションのために行う旅行の費用を負担することにより、これらの旅行に参加した従業員等が受ける経済的利益については、当該旅行の企画立案、主催者、旅行の目的・規模・行程、従業員等の参加割合・使用者及び参加従業員等の負担額及び負担割合などを総合的に勘案して実態に即した処理を行うこととするが、
次のいずれの要件も満たしている場合には、原則として課税しなくて差し支えないものとする。
- 当該旅行に要する期間が4泊5日(目的地が海外の場合には、目的地における滞在日数による。)以内のものであること。
- 当該旅行に参加する従業員等の数が全従業員等(工場、支店等で行う場合には、当該工場、支店等の従業員等)の50%以上であること。
これらに加えて、「社会通念上一般的」という観点から、高額でないことも要請されると言われます。
具体的な金額についてはケースバイケースの判断になりますが、ネットなどでは「一人当たり10万円」といった基準が示されることが多いです。
この取扱いに関連して、よく問題になることの一つに、同族関係者だけで占められる会社の社員旅行が認められるか、という論点があります。
上記通達において、それを制限する記述はありませんが、以下の見解があります。
家族従業員しかいない会社の慰安旅行は、サラリーマンが行う家族旅行と何ら変わりがないため、福利厚生費として処理することは適当でなく、その旅行費用については、役員または従業員に対する賞与として取り扱われます。
(中略)
慰安旅行とは、本来、従業員の勤労意欲を高め、もっと事業を発展させるため使用者としての立場から主催するものです。
しかし、従業員のすべてが家族従業員である場合、客観的にみて同じ会社で働いている夫婦、親子がその良好な家族関係を維持発展すべく企画実行したものであり、その内容から見て、社会通念上会社が従業員の慰安旅行として一般的に行っている旅行とはいいがたいものと思われます。
むしろ、サラリーマン家族が行う、いわゆる家族旅行と何ら異なるものではないとさえいえます。
つまり、単なる家族旅行であるとすれぱ、会社の費用となるべきものではなく、役員賞与として取り扱われるわけです。
実体が家族旅行であることをもって、福利厚生として認められないことから、同族関係者だけで占められる会社の社員旅行は経費として認められないと解説されています。
とりわけ、近年は福利厚生に厳しいこともあり、国税が税務調査で指摘を行った、という話も耳にしています。
しかし、あくまでも私の意見を申しますと、個人的にはこの見解とは異なり、損金になると考えています。と言いますのも、養老保険に関して、その大部分が特殊関係者である会社の場合、福利厚生費にならないという取扱いが設けられているからです。
使用者が、自己を契約者とし、役員又は使用人~を被保険者とする養老保険~に加入してその保険料~を支払ったことにより当該役員又は使用人が受ける経済的利益~については、次に揚げる場合の区分に応じ、それぞれ次により取り扱う~
(3)死亡保険金の受取人が被保険者の遺族で、生存保険金の受取人が当該使用者である場合 当該役員又は使用人が受ける経済的利益はないものとする。
ただし、役員又は特定の使用人~のみを被保険者としている場合には、その支払った保険料の額のうち、その2分の1に相当する金額は、当該役員又は使用人に対する給与等とする。
(注)
2 上記(3)のただし書については、次によることに留意する。
(2)役員又は使用人の全部又は大部分が同族関係者である法人については、たとえその役員又は使用人の全部を対象として保険に加入する場合であっても、その同族関係者である役員又は使用人については、ただし書を適用する。
同族関係者だけで占められる会社の社員旅行は損金と認めないのであれば、この保険と同じような注意書きが上記の慰安旅行に関する通達にも必要なはずです。
しかし、それはありませんから、字面通りに通達を理解するのであれば、社員旅行については福利厚生費になると考えられます。
何より、法人と個人は異なる存在として税法が作られていますので、実体が個人の家族旅行とは言え、外形上会社の慰安旅行であれば、それを否認するには別の明確な根拠が原則として必要になるはずです。
もちろん、通達の趣旨も踏まえて考えるべきです。
養老保険に関してこのような規定が設けられているのか、その解説として以下があります。
所得税基本通達36-31の(3)の趣旨は、法人が契約者となった養老保険について、役員又は使用人の遺族を保険金の受取人とする死亡保険金に係る部分の保険料は、本来、役員又は使用人が個人で負担すべきものであり、これを法人が支出した場合は被保険者たる役員又は使用人に対する経済的利益の供与に該当し、給与課税の対象となるが、
法人が支払った保険料のうち、死亡保険金に係る部分については、保険金の受取人が、被保険者の遺族等となっていることからみて、被保険者が死亡した場合に初めてその遺族等が死亡保険金を受け取るものであることからすれば、保険料の掛込み段階では、被保険者にとって保険事故が発生しない限り具体的受益はなく、潜在的な利益であること、また、法人が契約者となり、役員又は使用人が被保険者となる保険契約は、保険の加入自体が役員又は使用人の個人の選択ではなく、福利厚生を目的とした法人の業務上の要請に基づくものであることから、
直ちに被保険者に対する給与として課税するのも実情に即さないため、原則として保険料の支出に係る経済的利益はないものとし、これを一種の福利厚生費と同視することとしたものと解することが相当である。
本件所得税通達の(注)2の(2)によれば役員又は使用人の全部又は大部分が同族関係者である法人の場合は、形式的な判断の下に本件所得税通達の(3)の本文の適用を認めないこととしているが、その趣旨は、当該法人においては、当該法人の同族関係者によって経営の支配権が確立され当該法人の同族関係者自らが養老保険の加入の要否及び保険金額等を決定する権限、すなわち養老保険契約の加入に伴う経済的利益の供与を決定する権限を有していることから、
当該法人が支払う養老保険の保険料にはもはや従業員の受動的利益であるはずの福利厚生費の性格が欠如し福利厚生を目的とした使用者側の業務上の要請による支出とは認められず、
同族関係者が、専ら当該経済的利益を自ら受益するために養老保険に加入していると認められることから、当該法人が支払った保険料は同族関係者に対する給与として課税されることになる。
このように、本件所得税通達の(注)2の(2)は、当該法人が役員又は使用人の全部を養老保険に加入させた場合であっても、本件通達の(3)の「役員又は特定の使用人(これらの者の親族を含む。)のみを被保険者としている場合」に該当し、その保険料が給与として課税されることを留意的に示したものと解される。
すなわち、同族関係者によって占められている会社については、保険の加入の要否及び保険金額等を決定する権限を、会社というより会社を構成する同族関係者個々人が持っていると判断できるために、このような仕組みが設けられていると説明されています。
とりわけ注目いただきたいのは「保険金額」の決定という点です。
「社会通念上」という金額制限がある慰安旅行とは異なり、保険の経済的利益については通達で特に金額の制限は設けられていません。
あくまでも私見ですが、このことを踏まえると、保険には金額制限がないため、同族関係者で占める会社はやろうと思えば行き過ぎた保険に加入して節税することが可能であるため、このような仕組みが取られたとも考えられます。
慰安旅行はそこまで高額になりませんし、給与として課税される実例も多いため、同族関係者の制限も設けられていないのではないか、とも考えられます。
なお、先の税務調査で指摘があった事例も、交渉で修正申告を慫慂されたものの、更正処分には至っていないようです。さすがに、税務署も明記された見解等はありませんので、更正処分までは行けなかったように考えます。
近年は福利厚生に税務調査で非常に厳しいこともあり、家族が占める会社では慰安旅行は給与と保守的な処理も検討する必要はあります。
しかし、金額的にそこまで大きくなるものでもありませんので、明確な見解が国税から出されるまでは、ある程度のリスクを覚悟して、同族関係者だけで占められる会社の社員旅行についても、損金処理して問題ないと個人的には考えています。
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