【税務調査交渉及び見落としがちな税務判断】非課税となる研修費用などの範囲

元国税調査官・税理士の松嶋です。
今回のテーマは「非課税となる研修費用などの範囲」です。

税務上、以下のように、事業の遂行上必要な知識を習得させるための研修等の費用については、非課税とされています。

所得税基本通達36-29の2
(課税しない経済的利益……使用人等に対し技術の習得等をさせるために支給する金品)

使用者が自己の業務遂行上の必要に基づき、役員又は使用人に当該役員又は使用人としての職務に直接必要な技術若しくは知識を習得させ、又は免許若しくは資格を取得させるための研修会、講習会等の出席費用又は大学等における聴講費用に充てるものとして支給する金品については、これらの費用として適正なものに限り、課税しなくて差し支えない。

この通達は平成28年度改正において、学資金に係る非課税規定が改正されたことに伴い、旧所得税基本通達9-15(使用人等に対し技術の習得等をさせるために支給する金品)に規定があったものを、現状の条文に移行したものです。

このため、従来とは趣旨が変わっていないことから、以下の3要件を満たす費用であれば、研修費用として非課税になると考えられます。

所得税の取扱いでは、次の三つの要件すべてに当てはまれば、その社員に対する給与課税の問題は生じません(所基通9-15)。

  1. 業務関連性・・・・・・講習会に参加することが、その会社の業務遂行上必要であること
  2. 職務対応性・・・・・・講習会の内容がその社員の職務に直接関連していること
  3. 費用通常性・・・・・・その費用負担が、一般に適正な金額であること

ただし、これらの要件について詳細に解説された事例は多くないため、実務ではどこまで認められるか疑義が大きいことも事実です。

例えば、(1)の業務関連性については、TKC税務Q&A「クルーザー、ヨットの操縦免許取得費用を負担した場合」にもあります通り、経営者個人の趣味としての資格取得費と認定されれば、福利厚生との関連性を主張しても、厳しい判断がなされる可能性が大きいと考えられます。

次に、(2)の職務対応性については、単に対応するだけでなく、TKC税務Q&A「従業員のパソコン講座受講料の給与課税の要否」にもあります通り、専門性のある対応関係が必要と解説されていますので、注意が必要です。
このため、一般的な資格であれば、それが否認される可能性があります。

その他、(3)の費用通常性に関してですが、研修費用に関しては、生命保険料の会社負担の場合に要請される、水平的公平に関する規定は通達上は見つかりません。

しかし、以下のような事例がありますので、研修の対象になる者については、水平的公平も原則として要請されると考えられます。

~従業員等に支給される研修受講のための費用(入学料、受講料、教材費、交通費等)については、次のことを条件に給与所得の収入金額に含まれないこととして取り扱ってよろしいか、照会します。

  1. 研修は、使用者の業務遂行上必要なものであること又は従業員の職務の遂行と密接に関連するものであること。
  2. 研修の受講及び事業主の負担につき各従業員の間に差が設けられていないこと。
  3. 非課税とされる金額は、当該研修を受講するために要する費用として適正なものであること。

ところで、所基通36-29の2の取扱いは、役員や使用人を対象にしたものです。
このため、その配偶者などのために負担する研修費用について、役員や使用人と同様の取扱いが可能かどうか、疑義が生じます。

この点、以下の事例がありますので、上記3要件を満たしていれば、課税対象にならないと考えられます。

大阪国税局WAN質疑応答事例検索システム 源泉所得税関係 
(TAINS源泉事例大阪局WAN2705)
「海外に赴任する予定の従業員の配偶者に係る語学研修費用の負担」

【照会要旨】
A社では、社員を英語圏以外の国、地域に赴任させる揚合、その社員の配偶者に対して次のような語学研修制度により現地語のレッスンを受けさせ、その費用の負担をすることを予定している。
この制度に基づくレッスン費用の負担額は課税されるか。

(語学研修制度の概要)
■目的・・・海外での業務遂行に当たっては、夫婦単位で行動せざるを得ないことが少なくないこと及び社員に業務に専念させるためには家庭生活の安定が必要であるので、日常生活に最低必要な程度の現地語を習得させる。
■対象者・・・英語圏以外の国、地域に赴任する社員の配偶者(社員が単身赴任する場合及び過去に当該国、地域に赴任経験がある場合を除く。)
■費用負担額・・・(1)赴任前の国内のレッスン費用(授業料、入学金、教材費等)として20万円を限度、(2)赴任後の任地でのレッスン費用として10万円を限度とする。

【回答要旨】
照会のレッスン費用の負担額については、課税しなくて差し支えない。
本件制度はその適用を受ける配偶者にとって一般教養としての知識を高めるというものではなく、当該配偶者が海外での公的行事に参加し、又は自宅で接待するなど使用者の業務遂行上の必要性によるものと認められる。
また、費用負担の対象となる語学研修費用は、実費の範囲内で、かつ、赴任地で生活する上で必要最低限とされる程度のレッスン費用の額を限度とするものであることから、照会の限りのレッスン費用の負担額であれば、所得税法基本通達9ー15(使用者等に対して技術の習得等をさせるために支給する金品)に準じて課税しなくて差し支えないと考えられる。

【関係法令通達】
所基通9ー15


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