元国税調査官・税理士の松嶋です。
今回のテーマは「へそくりと名義預金」です。

税務調査では、名義預金が問題になりますが、この名義預金に関連して問題になる論点の一つに、専業主婦などのへそくりがあります。

被相続人から生活費の支給を受け、その中から自分のへそくりを残すといったことはよくありますが、これが名義預金に該当するかが問題になります。

と言いますのも、名義預金の判断基準は次の5つであり、そのうち原資に関しては、専業主婦などの場合、結婚前などに作っている金などではない限り、原則として被相続人の財産であることは異論がないからです。

東京地裁平成20年10月17日判決(Z258-11053)
被相続人以外の者の名義である財産が相続開始時において被相続人に帰属するものであったか否かは、

  1. 当該財産又はその購入原資の出捐者
  2. 当該財産の管理及び運用の状況
  3. 当該財産から生ずる利益の帰属者
  4. 被相続人と当該財産の名義人並びに当該財産の管理及び運用をする者との関係
  5. 当該財産の名義人がその名義を有することになった経緯等

を総合考慮して判断する
(注:数字は著者補足)

こういう訳で、被相続人の配偶者のへそくりが税務調査で問題になる事例は多いですが、以下の通りへそくりについて名義預金になるとした事例もあります。

東京地裁平成20年10月17日判決(Z258-11053)

財産の帰属の判定において、一般的には、当該財産の名義がだれであるかは重要な一要素となり得るものではある。しかしながら、我が国においては、夫が自己の財産を、自己の扶養する妻名義の預金等の形態で保有するのも珍しいことではないというのが公知の事実であるから、本件丁(注:妻)名義預金等の帰属の判定において、それが丁名義であることの一事をもって丁の所有であると断ずることはできず、諸般の事情を総合的に考慮してこれを決する必要があるというべきである。

とりわけ注意したいのは、夫婦間については、管理運用状況が名義預金の反論の決め手にならないということです。
このため、妻が夫に隠れてへそくりを自己名義の預金とし、それを独自で管理していたとしても、国税に対する決定的な反論にはならないと考えられます。

東京地裁平成20年10月17日判決(Z258-11053)

財産の帰属の判定において、財産の管理及び運用をだれがしていたかということは重要な一要素となり得るものではあるが、夫婦間においては、妻が夫の財産について管理及び運用をすることがさほど不自然であるということはできないから、これを殊更重視することはできず、被相続人の妻が被相続人名義で被相続人に帰属する預金等の管理及び運用もしていたことを併せ考慮すると、被相続人の妻が妻名義の預金等の管理及び運用をしていたとしても、妻名義の預金等が被相続人ではなく妻に帰属するものであったことを示す決定的な要素であるということはできない

上記に加え、大きな問題になることとして、へそくりについては基本的には妻の特有財産に該当しないとされていることが挙げられます。

平成19年4月11日裁決(F0-3-312)

本件預貯金等は被相続人から妻Aへ生活費等として生前贈与されたものを貯蓄して形成されたものであり、生活費の余剰金については、口頭による贈与契約があった旨主張する。しかしながら、(1)仮に被相続人が妻Aに生活費として処分を任せて渡していた金員があり、生活費の余剰分は自由に使ってよい旨言われていたとしても、渡された生活費の法的性質は夫婦共同生活の基金であって、余剰を妻A名義の預金等としたとしてもその法的性質は失われないと考えられるのであり、このような言辞が直ちに贈与契約を意味してその預金等の全額が妻Aの特有財産となるものとはいえない~
以上のことから、総合判断すると、本件預貯金等については妻Aの名義になっているものの、認定事実のとおり、その原資は被相続人が拠出したものであって、本件預貯金等は被相続人に帰属すると認めるのが相当である

特有財産とは、「夫婦の一方が単独で有する財産」を意味します。このため、特有財産に該当しないのであれば、妻固有の財産にはならず、夫との共有財産になると考えられます。

夫との共有財産になるのであれば、へそくりについては、民法の建前としては、1/2は夫の財産になると考えられます。

民法762条(夫婦間における財産の帰属)
  1. 夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
  2. 夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。

実際のところ、「夫婦が婚姻費用の分担として金銭を拠出し、家計費に充てられた後の剰余金を生じた場合には、拠出した者の特有財産になるのではなく、夫婦間では共有財産になる」(昭和46年1月18日判決。TAINS未収録)とされています。

このため、へそくりの全額について、夫である被相続人の名義財産と指摘されれば、全額ではなく、1/2が夫の財産である、といった反論は可能であると考えられますが、夫婦間において生前贈与があったため、妻固有の財産であり、被相続人である夫の名義財産ではないと主張することは極めて困難であると考えられます。

結果として、妻名義の預金が夫である被相続人の名義預金でないと主張するためには、妻にその他の収入があるか、実家から相続や贈与があるかなど、預金の資金源として、被相続人である夫以外から得られた所得や財産について検討する必要があります。

その一方で、へそくりを使って妻が自己固有の財産を購入すれば、それは特有財産になるとした事例があります。

言い換えれば、へそくりを使って、自己固有の財産を購入しさえすれば、それは妻の特有財産で被相続人である夫の名義預金として認定することはできないと考えられます。

東京地裁昭和59年7月12日判決(TAINS未収録)

夫が生前妻から生活費の余剰金は自由に使ってよい旨言われていたことも認められる。しかし、夫が妻に渡していた生活費の法的性質からすると、妻が生活費の余剰から自己固有の財産取得した場合には右財産を妻の特有財産とみることはできても、単に生活費の余剰を夫名義の定期預金としたに過ぎない場合には、右預金は未だ夫婦共同生活の基金としての性格を失わないと考えられるのであり、右預金も夫と妻の共有財産と解される。


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