元国税調査官・税理士の松嶋です。
今回のテーマは「名義と不動産所得の帰属」です。

親の土地を使用貸借して子が第三者に賃貸することはよくありますが、この場合親が不動産所得を申告するか、それとも子が申告するかで問題になります。

こちらについては、時間貸しなど事業所得になる場合を除き、原則としてその所得区分は不動産所得に該当します。

不動産所得は所有者に帰属するため、所有者である親に対して不動産所得が課税されます。

TAINS 所事例007247 所事例7247 税相版 誤りやすい事例集(改訂版)(所得税47)

申告 誤りやすい項目 使用貸借(無償)している土地から生ずる所得の帰属者について
(平成14年6月)東京国税局・税務相談室【情報公開法第9条第1項による開示情報】

【誤った認識】
父から息子が使用貸借(無償)している土地を駐車場として他の者に貸し付けることによる不動産所得は息子が申告する

【正しい答え】
土地(資産)から生ずる所得はその所有者に帰属し、父が申告する

【根拠法令等】
所基通12-1

【その他(コメント・作成年)】
時間貸しなど事業所得となる場合は、その経営者が申告する

平成14年6月作成

不動産所得は資産の所得であり、事業所得とは異なるものですから、その帰属の判断については、資産の所有者という事業主とは別の基準で判断することになります。

以下の通り、通達においても事業の収益と資産の収益で異なる帰属判断が示されています。

所得税法基本通達12-1(資産から生ずる収益を享受する者の判定)

法第12条の適用上、資産から生ずる収益を享受する者がだれであるかは、その収益の基因となる資産の真実の権利者がだれであるかにより判定すべきであるが、それが明らかでない場合には、その資産の名義者が真実の権利者であるものと推定する。

所得税法基本通達12-2(事業から生ずる収益を享受する者の判定)

1 事業から生ずる収益を享受する者がだれであるかは、その事業を経営していると認められる者~がだれであるかにより判定するものとする。

実際、下記の事例でも、所有者が不動産所得を申告するべきと判断されています。
この事例の地裁判決では、使用貸借により借り受けた子が申告するべきとされていましたが、それは取り消されています。

大阪高裁令和4年7月20日判決(Z888-2426)

要点

親子間での土地の使用貸借契約は有効に成立していると認められるが、子らが「単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合」に当たるから、駐車場の収益は、土地の所有者である親に帰属するとした事例

納税者(承継前一審原告)は、子ら(被控訴人・長男及び長女)との間で、各土地の使用貸借契約等を締結し、駐車場収入は子らに帰属するものとして申告したところ、処分行政庁から、駐車場収入は納税者に帰属するとして更正処分を受けました。

大阪地裁は、駐車場収入は子らに帰属すると判断しましたが、大阪高裁は、次のように判示して、駐車場の収益は、土地の所有者である納税者に帰属すると判断しました。

本件各取引は、納税者の相続税対策を主たる目的として、土地の所有権はあくまでも納税者が保有することを前提に、土地による所得を子らに形式上分散する目的で、同人らに対して使用貸借契約に基づく法定果実収取権を付与したものにすぎないものと認められる。

したがって、たとえ、本件各取引後、駐車場の収益が子らの口座に振り込まれていたとしても、そのように納税者が子らに対する土地の法定果実収取権の付与を継続していたこと自体が、納税者が所有権者として享受すべき収益を子に自ら無償で処分している結果であると評価できるのであって、やはりその収益を支配していたのは納税者というべきであるから、駐車場の収益については、子らは単なる名義人であって、その収益を享受せず、納税者がその収益を享受する場合に当たるというべきである。

ただし、注意いただきたいのは、消費税は登記の名義に関係なく、実質的に対価を享受する者が資産の譲渡等を行ったとされるということです。

この点、親の土地を子が使用貸借で借りて第三者に貸す場合には、対価は子が収入するはずですので、所得税の納税義務者である親ではなく、子が資産の譲渡等を行ったとされると解されます。

TAINS 消費事例003704 第5 納税義務者 5-61 納税義務者の実質判定
  • (問)
    建物の登記上の名義人はAであるが、その建物はAの子Bが他人に賃貸しその賃料を受取っている場合、法第13条の実質課税の原則からみて誰が資産の譲渡等を行ったこととなるか。
  • (答)
    Aが単なる登記上の名義人であって、その建物の賃貸借に係る対価を享受せず、実際にはAの子Bがその対価を享受してる場合には、Bが資産の譲渡等を行ったことになる(法13、基通4-1-1)。

    (平成12年国税庁消費税課)

となれば、所得税と消費税で申告者が異なることになるはずです。

実際のところ、所得税は事業の収益と資産の収益で帰属判断を分けていますが、消費税は以下の通達しか見つかりません。

消費税法基本通達4-1-1(資産の譲渡等に係る対価を享受する者の判定)

事業に係る事業者がだれであるかは、資産の譲渡等に係る対価を実質的に享受している者がだれであるかにより判定する。

すなわち、消費税の帰属の判断は、「資産の譲渡等」という一つのカテゴリーで規定をしていますので、事業の収益も資産の収益も一つの取扱いになる可能性があります。

ところで、この不動産の名義と所得の帰属に関しては、不動産オーナーが法人成りして、法人を作る場合も問題になります。

この点、実質的に法人が賃料をもらっていれば、所得の帰属は法人でよく、登記等も不要とする見解もありますが、正しくは以下とされています。

平成24年12月4日裁決(J89-2-05)

建物の~登記名義人を~法人とすることができない特段の事情はなく~真実の所有者は請求人であるとの推定を覆す合理的な根拠も見当たらない~建物の~法人への譲渡も~実態が存在しない~賃貸名義人~を~法人に変更できない特段の事情も見当たらないことから
~真実の賃貸人は請求人~建物の真実の所有者及び~真実の賃貸人は、いずれも請求人であると認められるから、本件賃貸料収入は請求人に帰属する

名義を法人に変えない特段の事情があれば別にして、そうでない場合には、不動産や賃借人との契約の名義を法人にそろえておかないと否認リスクがあるということになります。

とりわけ、所有型法人スキームの場合、銀行の担保の関係上、個人が法人に譲渡しても、所有者の名義は個人に残すことを要請される場合が多くあります。この事情により登記を移していない点、記録に残しておく必要があります。

このあたり、盲点になりやすいので、注意して下さい。


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