元国税調査官・税理士の松嶋です。
今回のテーマは「相続財産法人の課税関係」です。

相続人の不存在の場合には、相続財産は民法において法人となります。
法人である以上、相続財産法人も法人税の対象になると解されますが、実際に法人税が課税されているかどうか、疑義があります。

例えば、TKC税務Q&A「相続財産管理人が管理不動産を譲渡した場合の課税関係」においては、法人でありながら法人税の対象にならないと解説されています。

その一方で、以下の通り法人税の対象になるといった指摘もあります。

「国際税務研究 日本国籍の居住者が相続人不明のまま死亡し、相続財産が相続財産法人となった場合の課税関係」(国際税務2022年8月号)

相続人不明の相続財産が、民法の規定により相続財産法人となった場合における課税上の取扱いについては、現行税法上、直接これを明らかにした規定や通達等はないが、税法規定の文脈上は、相続財産法人は、まぎれもなく内国普通法人に該当する。したがって、その存続期間中に当該相続財産について生じた所得については、当該相続財産法人が、一般の例により、法人税や所得税等の納税義務を負うことになるものと解したい。

消費税に関しても、納税義務者になり得ると説明された事例があります。

「<税務相談>消費税《相続財産法人の納税義務》」(税務通信3424号)

相続があった場合において、相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とすることとされています(民法951)。

この場合において、被相続人が行っていた事業は相続財産法人が継続することになりますが、これは相続財産法人が被相続人の事業を相続により承継するものではないことから、相続財産法人として新たに事業を開始するものといえます。

したがって、消費税法上、相続財産法人は新たに事業を開始した事業者に該当しますから、原則として基準期間がない2年間は免税事業者に該当することになります~

なお、相続財産法人について、所得税の準確定申告の義務はあるとされている模様です。

「所得税の納税義務の承継について」(税務大学校論叢第101号)

相続財産法人の申告手続については、所得税法上何ら規定されておらず、相続財産法人が、所得税法 124条及び125条に規定する準確定申告書を提出すべき者に該当するか否かについて問題となるが、同法129条において、死亡の場合の確定申告による納付については、通則法5条の定めるところにより国に納付しなければならない旨規定し、
同条において、相続財産法人は国税を納める義務を承継する旨規定されていること、相続財産法人も被相続人の権利義務を承継した相続人と同様の地位にあるとされていることから、相続財産法人も被相続人が有していた税法上の地位を承継し、準確定申告書を提出すべき者に該当すると考えられている。

なお、相続財産法人成立後に相続人のあることが明らかとなった場合には、相続財産法人は相続開始の時に遡って存在しなかったものとみなされ、判明した相続人が当初から相続財産の主体であったことになり、相続人が相続の承認をしたときに、相続財産法人の財産を管理する相続財産管理人の代理権は消滅するが、
相続財産管理人がした申告、納付その他の行為及び相続財産管理人を相手方の代理人としてなされた賦課徴収等の処分は、いずれもその効力を失うことなく、その効果は相続人に帰属すると解されている

話を戻しますが、正しい法人税法の解釈としては、相続財産法人も法人である以上は、法人税の納税義務者になると言わざるを得ません。
法律で人格を与えられる「法人」であるかどうかで法人税を課すかどうかを決めるというのが法人税法の仕組みだからです。

東京高裁平成19年10月10日判決(Z257-10798)

本件LLCは、ニューヨーク州LLC法上、法人格を有する団体として規定されており、自然人とは異なる人格を認められた上で、実際、自己の名において契約をするなど、納税者及び訴外A(本件LLCの構成員)からは独立した法的実在として存在することが認められることから、本件LLCは、米国ニューヨーク州法上法人格を有する団体であり、我が国の私法上(租税法上)の法人に該当すると解するのが相当である

このため、相続財産法人が賃貸不動産を譲渡するような場合、申告納税義務が発生すると解されます。


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