元国税調査官・税理士の松嶋です。
今回のテーマは「棚卸資産に係る消費税額の調整規定の盲点」です。
消費税において、免税事業者が課税事業者になったり、課税事業者が免税事業者になったりと、納税義務が異動する場合には、棚卸資産に係る消費税額の調整規定が働きます。
1 ~消費税を納める義務が免除される事業者が~適用を受けないこととなった場合において、その受けないこととなった課税期間の初日~の前日において消費税を納める義務が免除されていた期間中に国内において譲り受けた課税仕入れに係る棚卸資産~を有しているときは、当該課税仕入れに係る棚卸資産~に係る消費税額をその受けないこととなった課税期間の仕入れに係る消費税額の計算の基礎となる課税仕入れ等の税額とみなす。
5 事業者が~消費税を納める義務が免除されることとなった場合において~適用を受けることとなった課税期間の初日の前日において当該前日の属する課税期間中に国内において譲り受けた課税仕入れに係る棚卸資産~を有しているときは、当該課税仕入れに係る棚卸資産~に係る消費税額は~当該課税期間の仕入れに係る消費税額の計算の基礎となる課税仕入れ等の税額に含まれないものとする。
免税事業者が課税事業者になる場合(消法36(1))と課税事業者が免税事業者になる場合(消法36(5))の2パターンに分けて規定されている訳ですが、調整対象となる棚卸資産の範囲は、以上の通り大きく異なっています。
すなわち、前者は、過年度を含めた、免税期間中において仕入れた棚卸資産を意味し、後者は課税事業者であった前期において仕入れた棚卸資産が対象になるということです。
このため、例えば以下のように納税義務の範囲が頻繁に変わった場合、どのような調整になるのか疑問が生じます。
(1)前々々期・・・免税
(2)前々期・・・・課税
(3)前期・・・・・免税
(4)当期・・・・・課税
具体的には、(4)当期の仕入税額控除として、以下の問題が生じます。
→ この棚卸資産については、翌期課税事業者として、(2)の前々期で控除済み
→ この棚卸資産については、(2)前々期において、翌期免税事業者として、仕入税額控除から除く処理を行っている
上記イについてですが、趣旨は別にして、以下と解説されています。
(2)の期首(注:前々期)において保有する棚卸資産については、(2)の課税期間において期首棚卸資産の税額調整を適用することなる。
この棚卸資産が(2)の期末においても現存する場合には、事例1のとおり期末棚卸資産の税額調整はする必要はない。
これがさらに繰り越されて(4)の期首(注:当期)においても現存する場合であるが、この棚卸資産については(2)の課税期間においてすでに税額調整の対象としているものであり、理屈から考えると、(4)の課税期間において再び期首棚卸資産の税額調整を適用する余地はないように思われる。
しかし、この棚卸資産は(1)(注:前々々期)の免税期間中に仕入れたものであリ、これを課税事業者となった(4)の課税期間の期首において保有するわけであるから、消費税法36条1項の規定の適用により、(4)の課税期間において再び税額調整の対象とすることが可能となる。消費税法には、これを認めないとする旨の規定は存在しないのである。
同様に、上記ロについては、以下と解説されています。
しかし、この棚卸資産は免税期間中に仕入れたものではないので、これを(4)の期首(注:当期)において保有する場合であっても、(4)の課税期間において、期首棚卸資産の税額調整の対象とすることはできないことになる。
消費税法36条5項では、「・・・・仕入れに係る消費税額の計算の基礎となる課税仕入れ等の税額に含まれないものとする」と規定しているのであり、「翌課税期間において課税仕入れを行ったものとみなす」と規定しているわけではない。
したがって、本事例のケースでは、再度税額調整の対象に取り込む余地はないということである。
すなわち、文字通り条文を解釈すれば足りるというのが専門家の見解となっています。
このあたりは、趣旨からして問題はありますが、免税事業者と課税事業者の区分が頻繁に入れ替わることは実務上多くないという判断もなされたかと思われます。
なお、棚卸資産に係る消費税の調整のうち、免税事業者が課税事業者になる場合の調整規定については、棚卸資産の明細を記録した書類の保存が要件となっています(消法36(5))。
このため、例えば、直前事業年度末日に除却した陳腐化品など、棚卸資産の明細書に記録されていないものについては、この規定の対象にはなりませんので注意が必要です。
詳細、TKC税務Q&A「課税事業者となった場合の調整対象棚卸資産の範囲」をご参照ください。
その他、対象になる棚卸資産は、国内において譲り受けた課税仕入れに係る棚卸資産などですので、課税仕入れに係る棚卸資産でなければ、当然ながら適用はありません。
このため、土地などについては、その付随費用部分についても、対象にならないとした事例があります。
消事例4073 第10 仕入税額控除 10-234 棚卸資産に計上した造成宅地の造成費用についての法36条の適用の有無
消費税審理事例検索システム (平成12年)国税庁消費税課
■概要
(問)
事業者が新規開業の時点で販売用の土地を取得し、それを宅地に造成した場合は、その造成費用を含めて棚卸資産に計上することとなる。
この場合に、当該事業者が課税事業者となったときにおいて、当該宅地が棚卸資産に計上されている場合には、免税事業者であった期間に支出した当該造成費用に係る消費税額については、法第36条第1項の規定を適用して仕入税額控除ができることとなるか。
(答)
法第36条第1項の規定は、国内において譲り受けた課税仕入れに係る棚卸資産について適用され、また、同項に規定する当該課税仕入れに係る棚卸資産に係る消費税額は当該棚卸資産の取得に要した費用の額に105分の4を乗じて算出した金額とされている(法36(1)、令54(7))。照会の事例について法第36条第1項の適用の有無を判定すると、
1 販売用の土地は棚卸資産に該当するが、国内において譲り受けた課税仕入れに係る棚卸資産ではないこと
2 当該宅地の造成費用は課税仕入れに該当するが、それ自体は棚卸資産に該当するものではなく、また、課税仕入れに係る棚卸資産に係る付随費用でもないこと
から、同項の適用はないこととなる。
したがって、事業者が課税事業者となったときにおいて当該宅地を棚卸資産として有していたとしても、当該造成費について仕入税額控除を受けることはできない。
(平成12年国税庁消費税課)
付随費用部分も対象にならない、というのは解釈としては首肯できない部分もありますが、本体が課税仕入れでない以上、このような取扱いになるようにも思われます。
このため、注意が必要です。
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