元国税調査官・税理士の松嶋です。
今回のテーマは「無償返還届出が出されていない場合の取扱い」です。
借地権のよくあるトラブル事例として、無償返還に関する届出書を提出していないという話があります。
この場合、無償返還届出書は遅滞なく提出するものであるため、仮に提出がなければそれが分かり次第出せば問題ないと言われます。
法人が借地権の設定等により他人に土地を使用させた場合~において、これにより収受する地代の額が~相当の地代の額に満たないとき~であっても、その借地権の設定等に係る契約書において将来借地人等がその土地を無償で返還することが定められており、かつ、その旨を借地人等との連名の書面により遅滞なく当該法人の納税地の所轄税務署長~に届け出たときは~当該借地権の設定等をした日の属する事業年度以後の各事業年度において~相当の地代の額から実際に収受している地代の額を控除した金額に相当する金額を借地人等に対して贈与したものとして取り扱うものとする。
確かに、実務でこのような対応をしても国税に否認されたという事例は聞いたことがありません。
しかしながら、TKC税務Q&A「土地の使用貸借と借地権利金の認定課税について」などでも解説されていますが、法人税は申告納税方式ですから、遅くとも設定年度の申告期限内には無償返還届出の提出を行うことが無難と解されます。
法事例3186 権利金の認定見合せ
〔問〕 法人がその有する土地を他人に使用させた場合において、借地権の設定等に当たり権利金の授受もなく、またその土地の価額に照らし相当の地代の収受もない場合には、権利金の認定課税が行われるそうだが、一定の要件のもとに権利金の認定を見合わせる取扱いがあるとのことである。この取扱いとはどのような内容か。
(前略)
すなわち、本通達においては、法人が借地権の設定等により他人に土地を使用させた場合において、これにつき、通常収受すべき借地権利金を収受せず、かつ、相当の地代の額に満たない地代しか授受しないこととしたときであっても、その借地権の設定等に係る契約書において将来借地人がその土地を無償で返還することを明らかにするとともに、
その旨連名の書面により遅滞なく税務署長(国税局の調査課所管法人にあっては、国税局長。以下同じ。)に届け出たときは、その土地の使用期間を含む各事業年度において、その実際に授受する地代の額が相当の地代の額に満たない部分につき認定課税が行われるにとどめ、借地権利金の認定課税は行われないことが明らかにされている。
ここでいう「遅滞なく」とは、土地の賃貸借の実行後相当の期間内に行うことを意味するものと考えられ、通常は、借地権の設定等があった後最初に到来する確定申告期限までということになろう。
また、この場合の「相当の地代の額」は、法人税基本通達13-1-2(使用の対価としての相当の地代)により最低限度土地の相続税評価額を基礎として計算することになる。
これにより、関係会社間や同族会社とその代表者の間などのいわゆる特殊関係者間における借地権の設定等については、いわば当事者の合意したところに従って課税関係が処理されることになり、借地権利金の認定課税というような課税関係はよくよくの場合に限定されているということである。
もっとも、法人が本通達の定めにかかわらず、借地の無償返還を明らかにしない場合には、たとえ特殊関係者であるとはいえ、一般の例により借地人が将来その権利を主張することになるとみなさざるを得ないので、借地権利金の認定課税が行われることになる~
ところで、仮に無償返還の届出を提出せず斥期間を経過した場合、その後の課税関係がどうなるか、往々にして質問を受けます。
この点、法人税などの所得課税については現時点判断説に基づき、認定課税がなかったという状態を前提に課税関係を考えることになると考えられます。
(注:除斥期間が経過したものについて)現事業年度においてはどのように処理すべきかということについて~除斥期間経過利益重視説ともいうべき考え方と~現時点判断説ともいうべき考え方とがある
~除斥期間経過利益重視説ともいうべき考え方は~除斥期間が満了していても、納税者がそれを真実の姿に戻したときは~真実の姿によりその後の事業年度への影響を考えるべきであり~除斥期間の経過による納税者~の利益は守られるべきであるとする
~現時点判断説ともいうべき考え方は、除斥期間の経過は単に当該年度の課税標準等又は税額等を今後異動させることはないということを保障しているに過ぎないのであって、除斥期間の経過により、脱漏所得が課税済みとみなされることになったり、架空売掛金が減額済みとみなされることまで包含しているとはいえないのではないか~とする
~実務は、後者のいわば現時点判断説ともいうべき考え方による。
要するに、本来行うべき更正決定を行わないまま除斥期間を徒過したのであるから、未是正の状態をそのまま前提にした後年度の課税を認容することであると考えられるからである。
一方で、相続税については、以下の裁決例があることから、無償返還の届出がなかったとしても、貸宅地としての評価は可能と考えられます。
被相続人が役員をしていたS社は、被相続人から甲土地を借り受けるのに際し、権利金及び地代の支払いも行ったことがなく、また、税務署長に対する無償返還届出書の提出がされていないことから、被相続人に係る相続開始時には甲が借地権を有していたものとみるのが相当であり、甲土地を貸宅地として評価通達等に基づいて評価した原処分庁の評価方法は、相当であると認められる。
下記でも情報を発信していますので、ご参考にしてください。
元国税調査官・税理士松嶋洋のFacebookページ
税務調査対策ノウハウPDF
元国税調査官だから話せる税務調査対策ノウハウPDFを、完全に無料で公開しています。
松嶋税務セカンドオピニオン&税務調査対策ノウハウPDF
松嶋税務セカンドオピニオン
税理士先生からの税務相談を1時間5万円(税抜)で受けています。
同一テーマなら追加料金なく相談可能ですので、安心してご相談ください。
松嶋税務セカンドオピニオン
「税務調査交渉及び、見落としがちな税務判断」についての注意事項
- 記載については、著者の個人的見解であり正確性を保証するものではありません。
本コラムのご利用によって生じたいかなる損害に対しても、賠償責任を負いません。
加えて、今後の税制改正等により、内容の全部または一部の見直しがありうる点にご注意ください。 - 掲載中の文章等の著作権は著者である合同会社アクトオーシャンに帰属し、無断転用・ 転写・複製を禁止致します。