公認会計士・税理士の金井先生のKPCレポートです。
不動産取得の相続対策が認められなかった「令和4年4月19日最高裁判決」の解説を共有させていただききます。

Ksプライベートコンサルティング:最高裁が「不動産取得による相続税対策」を認めず ~判決の決め手は「三菱UFJ信託銀行」に残っていた稟議書~

以下一部抜粋

4.最高裁の判断
さていよいよ最高裁の判断を見て行きましょう。

まず最高裁は「相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるから、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するものではないと解するのが相当である。」として「総則6項」の存在そのものは問題ないとしました。その一方で「これを本件各不動産についてみると、本件各通達評価額と本件各鑑定評価額との間には大きなかい離があるということができるものの、このことをもって上記事情があるということはできない。」としているのです。つまり最高裁は「取得価額」及び「鑑定評価額」と「通達評価額」の乖離については「総則6項」適用の理由にはならないとしているのです。

さらに最高裁は「そして、被相続人及び上告人らは、本件購入・借入れが近い将来発生することが予想される被相続人からの相続において上告人らの相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り、かつ、これを期待して、あえて本件購入・借入れを企画して実行したというのであるから、租税負担の軽減をも意図してこれを行ったものといえる。そうすると、本件各不動産の価額について評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことは、本件購入・借入れのような行為をせず、又はすることのできない他の納税者と上告人らとの間に看過し難い不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反するというべきであるから、上記事情があるものということができる。」としました。つまり問題なのはA氏の2回の不動産取得が「相続税の節税目的」であり、その結果(思惑通り)大きく相続税額が激減したことが「著しく不適当」だと言っているのです。

しかしA氏の2回の不動産取得が「相続税の節税目的」であると最高裁はどうしてわかったのでしょうか?この裁判の時にはA氏は既に死去していますから、最高裁に出廷して裁判官と目を合わせることすらしていません。それとも最高裁の裁判官は、A氏の遺影を見たらその生前の心の内がわかるような超能力でも持っているのでしょうか?

この疑問は最高裁判決だけを眺めていても決して理解することができません。この疑問は最高裁の前に行われた国税不服審判所の裁決文を読むことで理解できます。国税不服審判所の裁決文によると「本件被相続人が、上記1の(4)のロの(ハ)及び(チ)の金員の借入れを申し込んだ際に、R銀行の担当者は、それぞれ「貸出稟議書」と題する書面を作成したところ、当該各書面には「採上理由」として相続対策のため不動産購入を計画、購入資金につき借入れの依頼があった旨及び相続対策のため本年1月に不動産購入、前回と同じく相続税対策を目的として収益物件の購入を計画、購入資金につき借入れの依頼があった旨の記載があり、相続人は、上記の金員の借入れを申し込むに際し、R銀行との間で、金員の借入れの目的が、相続税の負担の軽減を目的とした不動産購入の資金調達にあるとの認識を共有していた。」との記載があります。ここでいう「R銀行」とは三菱UFJ信託銀行のことです。つまり税務調査で札幌南税務署の担当官は三菱UFJ信託銀行に反面調査に入り、そこに残されていた稟議書等を確認することによって、この2回の不動産取得が「相続税の節税目的」であることについての証拠を確保していたのです。そして最終的にはこの稟議書等が決め手となり、A氏の2回の不動産取得は「相続税の節税目的」であると最高裁の裁判官にも認められ、最終的には札幌南税務署の主張が全て通ったということになります。

5.これからの実務
裁判の判決というのはあくまでもその事案に関するものであって一般的に適用されるものではありません。しかしこの判決文から最高裁の裁判官の考え方を読み取ることは可能です。これらの内容から私が考えるこれからの実務で注意すべき点などをまとめてみました。

まず「総則6項」の適用の最大のポイントは「相続税の節税目的」で不動産取得をしていることであるということですから、不動産の取得をした結果、大幅に相続税が減少したとしても、その目的が自身の居住目的であったり、インカムゲインやキャピタルゲインを目的とした純粋な不動産投資であれば「総則6項」が適用される可能性は極めて低いということになります。このような場合は、税務調査で不動産取得の経緯を聞かれても、あるがままの事実をそのまま説明すれば何の問題もないでしょう。

問題なのは金融機関や不動産会社に勧められるなどして「相続税の節税目的」で不動産取得をしてしまったようなケースです。自分は税務調査が来ても日本の国会議員に負けないくらい何のためらいもなくウソをつけるし、日本の優秀な官僚とも対等に渡り合えるくらいとぼけた回答ではぐらかすことに自信があると思っている人もいるかもしれません。しかし本件でもわかるように、税務当局は不動産の取得を勧めた金融機関や不動産会社に反面調査に入ることなどができるのです。海千山千の「猛者?」ばかりである不動産会社はどうだかわかりませんが、国税庁と兄弟官庁に当たる金融庁様に全く頭の上がらない日本の金融機関は言われるがままに資料を見せたり、写しをとらせてしまう可能性は極めて高いと言えるでしょう。これらの証拠が押さえられると「相続税の節税目的」で不動産取得をしたという動かぬ証拠となり「総則6項」が適用される方向へ進んでいく可能性があるということになります。

この最高裁判決で勝訴を得たことによって、税務当局はますます積極的に「総則6項」を使ってくることが想定されます。不動産取得の経緯に不安がある方は個別に専門家に相談して善後策を考えることが重要です。あまりにも強い不安を感じるようであれば精神衛生上も良くないですから、不動産市況が崩れる前に不動産を売却してしまうことも1つの手ではないでしょうか。また「相続税の節税」を前面に出したあまりにも露骨なセールストークを受けているようなら、弁護士と相談して、登録免許税や不動産取得税、仲介手数料などの負担を金融機関などに求めても良いかもしれません。また話の内容次第では「ニセ税理士行為」の疑いありとして、国税庁や税理士会に彼らの作った「提案書」などを提出して、こちらも出来れば弁護士と一緒に相談してみるのも良いかもしれませんね。

なお本件と酷似したトラブルが「千葉銀行」提案でも発生していることから、同様の事案が全国的に多数行われていることがわかります。次回のKPCレポートは本件とも比較しながらこの「千葉銀行」事案について解説していきます。