元国税調査官・税理士の松嶋です。
税務雑誌等から注目すべき税務記事を紹介します。
今回は税務通信3696からです。

税務署で事前相談して、相談担当者が国税局に上げて国税局から源泉課税されないという回答もらっているのに、税務調査で課税された事例(令和3年2月16日裁決。TAINS未収録)が紹介されています。常識的には酷すぎると思われますが、税はすべからく法律によって決まりますので(合法性の原則)、この誤指導に関係なく、源泉所得税本税が課税されています。

審判所は、税務署窓口の相談を単なる行政サービスの一環としています。サービスの一環である以上、責任のある回答ではないという意味で国税に責任はないとして信義則を否認しています。結果として、課税されないと税務署で指導を受けたのに、納税者は泣き寝入りするしかないことになり、これが税の怖さなのです。

少し脱線しますが、税務署に見解を聞きに行った場合、

・ 署長や副署長などの責任ある職員は絶対に対応しない
・ 文書回答は基本行わない

という対応が行われます。相談の回答は署長や副署長の仕事ではないからではなく、後日トラブルになる恐れがあるからです。同様に、文書回答もこういうものを出してしまうとそれが独り歩きする可能性があります。簡単に言えば、信義則が成立しないようにリスクヘッジしているのです。

こういう訳で、税務署に聞いてOKもらっても、必要十分条件を満たした訳ではないことは重々承知しておくべきで、この点クライアントにも伝えておく必要があります。ただし、それでも税務署に聞く実益はありますので、不透明な部分や金額が大きな取引については、必ず見解は聞いた方がいいと思います。

本件もそうですが、誤指導があったことが事実でそれが立証できれば、加算税が課されない場合があります。加算税がかからない正当な理由は誤指導で認められる場合が多いですから、単なる気休め以上の効果は税務署の窓口の相談にあります。

となると、相談履歴はこっそり秘密録音するとかいった対応が必要になりますね。億音は禁止と税務署は言いますが、本件のようなケースで弁護士がまず聞くのは「録音はありますか?」ということ。録音もないのに、誤指導を立証するのは極めて困難だからで、税務署もここをわかっているからこそ、録音禁止としています。