元国税調査官・税理士の松嶋です。
税務雑誌等から注目すべき税務記事を紹介します。
2022年01月17日 税のしるべより。
ほとんど認められないのですが、過少申告加算税が課されない「正当な理由」(通法65④)が認められた審査事例が紹介されています。この事例、請求人が税理士の方ということで、非常に注目すべき事例の一つと思われます。
相続の事例で、被相続人の子である相続人が請求人の方ともう一人。このもう一人の方の子(被相続人の孫)に被相続人が生前譲渡した家屋について、相続開始後譲渡が無効とされ、結果としてその家屋も相続財産となったという事例です。
当然のことながら、被相続人の固定資産台帳も確認の上、請求人の方は相続税申告しています。加えて、もう一人の方とは兄弟とはいえ、世帯は別ですから、孫の譲渡が無効など把握しようがないので、加算税について正当な理由があると主張しています。
審判所は、請求人である税理士の方に帰責事由がないことを認め、常識的な判断として正当な理由を認めています。
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不動産登記には、公信力が認められないものの、一般的には登記簿上の名義人が、当該不動産の所有者と推定することができるところ、本件においては~本件相続の開始時、本件家屋の所有者をK(注:孫)とする登記がなされており~請求人が関与税理士として本件家屋の売買に係る譲渡所得の申告を行っていること~本件被相続人が、Kに本件家屋を譲渡することが、特段不自然、不合理とはいえないことなどの事情からすれば、請求人において、殊更に、本件家屋の売買の有効性を疑うべき状況になかったと認められる。
このような本件家屋に係る相続税の申告以前の状況からみれば、請求人には、本件被相続人とKとの間の本件家屋の売買が有効に成立し、本件家屋の所有権がKに移転したと誤信せざるを得ない事情があったといわざるを得ない。
~請求人が本件家屋について申告しなかったことにより本件相続に係る相続税の申告が過少申告となったことについて、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお請求人に過少申告加算税を賦課することは不当又は酷であって、請求人には正当な理由があったと認められる。
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一見すると当然の判断ですが、国税当局は本件に対し、預金調査をした上で、名義財産がある可能性も含めて相続人は調べるべきなので、正当な理由はない、といった主張をしているようです。こんなことを納税者がやるとすれば、あまりにも現実離れしていることですので、審判所の以下の判断は常識的と思います。
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原処分庁は~請求人は、本件被相続人各口座からの入出金が、本件被相続人の固定資産(補充)課税台帳登録事項証明書に証明されていない不動産の取得等に充てられている可能性も含め、入出金などを調査すべきであった旨、また、原処分庁が、本件被相続人各口座及び相続人Hら各口座の入出金や質問調査を契機として本件相続に係る財産であると認定したことからすれば、請求人も本件家屋が本件相続に係る財産であることを把握することは可能であった旨主張する。
しかしながら、上記Aのとおり、本件家屋の売買について、特段不自然、不合理な点は認められないのであり、請求人がこれを有効と信じてもやむを得ないことといえる。
また、上記ロの(ホ)のとおり、請求人が、相続人Hら各口座の取引履歴等を入手したのは、本件相続に係る相続税の申告期限後であり、単に、本件被相続人各口座からの使途不明な出金があったというだけで、本件被相続人の固定資産(補充)課税台帳登録事項証明書において証明もされていない本件家屋に係る、本件相続の開始時から約4年も前に本件被相続人とKとの間で締結された売買契約の有効性について、請求人が、疑念を抱いた上で、その有効性を調査すべきであったとはいえない。
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反面調査などの権限がある税務署と違って、税理士や納税者が相続財産の範囲を調査するのはおのずと限界があります。となると、名義財産のように帰属が不明確なものについては、もっと正当な理由を認めてもいいように思います。
一方で、見方を変えれば、被相続人は、相続人に苦労させないように早く遺言書を書いたり、名義財産について相続人に伝えておいたりする必要があるといえるでしょう。
加えて、本件の請求人である税理士のように、指導に安易に従うのではなく、もっと国税当局と争う必要もあると思われます。