元国税調査官・税理士の松嶋です。
税務雑誌等から注目すべき税務記事を紹介します。
国税速報6688からです。
建物の取壊費用が譲渡所得の計算上、土地の譲渡費用にならないとされた事例が解説されています。取り壊した理由について、①建物が以前から空室であり老朽化と判断されること、②そして当事者では建物ではなく土地のみを取引する前提で交渉が進んでおり、取壊しは前提条件にも上がっていなかったことから、譲渡目的ではないと指摘されています。
何より、取り壊してから1年8月後に譲渡契約していることもあり、建物の取壊費用が土地の譲渡のために要する費用とは認められないということです。
非常に有名な判例ですが、譲渡費用は「現実に行われた資産の譲渡を前提として、客観的に見てその譲渡を実現するために当該費用が必要であったかどうかによって判断」するとされています。
最高裁平成18年4月20日判決(Z256-10373)
譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものである~所得税法上、抽象的に発生している資産の増加益そのものが課税の対象となっているわけではなく、原則として、資産の譲渡により実現した所得が課税の対象となっているものである。そうであるとすれば、資産の譲渡に当たって支出された費用が所得税法33条3項にいう譲渡費用に当たるかどうかは、一般的、抽象的に当該資産を譲渡するために当該費用が必要であるかどうかによって判断するのではなく、現実に行われた資産の譲渡を前提として、客観的に見てその譲渡を実現するために当該費用が必要であったかどうかによって判断すべきものである。
現実を前提に考えるとすれば、そもそも取壊しと譲渡のスパンが長ければ、譲渡費用と見るのは困難でしょう。結果として、やるなら相応の理由を用意しないとまずいことになります。
この点、建物の取壊費用にとどまるものではなく、過去に支払ったものも譲渡費用になるのでは、といった指摘も聞きますが、明確な国税の見解などはないものの、現実に行われた譲渡が前提になるとすれば、なかなか難しいのかも知れません。