元国税調査官・税理士の松嶋です。
税務雑誌等から注目すべき税務記事を紹介します。
2021年11月29日 税のしるべより。
いつかは問題になると思っていた事例なのですが、以下の場合、当期を課税事業者として申告したとき、当期はやはり免税事業者だったとして更正の請求はできるでしょうか。
1 2期前(基準期間)の課税売上高は1千万円以下
2 前期上期(特定期間)の給与支払額は1千万円以下
3 前期上期(特定期間)の課税売上高は1千万円超
条文は以下とされています。
消費税法9条の2(前年又は前事業年度等における課税売上高による納税義務の免除の特例)
1 個人事業者のその年又は法人のその事業年度の基準期間における課税売上高が1,000万円以下である場合において,当該個人事業者又は法人(前条第4項の規定による届出書の提出により消費税を納める義務が免除されないものを除く。)のうち,当該個人事業者のその年又は法人のその事業年度に係る特定期間における課税売上高が1,000万円を超えるときは,当該個人事業者のその年又は法人のその事業年度における課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについては,同条第1項本文の規定は,適用しない。
3 第1項の規定を適用する場合においては,前項の規定にかかわらず,第1項の個人事業者又は法人が同項の特定期間中に支払つた所得税法第231条第1項(給与等,退職手当等又は公的年金等の支払明細書)に規定する支払明細書に記載すべき同項の給与等の金額に相当するものとして財務省令で定めるものの合計額をもつて,第1項の特定期間における課税売上高とすることができる。
法令をご覧いただきますと、上記2の給与支払額(消法9の2③)と上記3の特定期間の課税売上高(消法9の2①)は「課税売上高とすることができる」と選択規定になっています(消基通1-5-23も参照)。結果として、上記3を選択していったん課税事業者になった場合、更正の請求により上記2に選択をやり直して免税事業者には戻れないことになります。いわゆる、更正の請求を否認する定番の、「法の適用誤りも計算誤りもない」というロジックです(通法23①)。
これを踏まえ、裁決でも同様に更正の請求ができないと結論付けられていますが。
しかし、ことはそう単純ではありません。
趣旨を詳しく検討すると、異なる結論になると個人的には考えています。以下をご覧ください。改正税法のすべてに書かれた、本制度の趣旨です。
「平成23年度改正税法のすべて」P647
給与等の金額の合計額が1,000万円以下であれば、結果的に~課税売上高が1,000万円を超えている場合であっても事業者免税点制度が適用されます。
給与等により判定する場合において当該金額が1,000万円以下である場合には、課税売上高が1,000万円を超えている場合でも事業者免税点制度が適用されますので(基準期間における課税売上高が1,000万円以下の場合)、この届出書の提出をする必要はありません。
また、給与等の金額により判定したか否かについても特段の届出書の提出義務はありません。
注意いただきたいのは、以下の3点です。
1 給与等の金額の合計額が1,000万円以下であれば、結果的に課税売上高が1,000万円を超えている場合であっても事業者免税点制度が適用されるということ
2 給与等により判定する場合において当該金額が1,000万円以下である場合には、課税売上高が1,000万円を超えている場合でも事業者免税点制度が適用されるということ
3 1と2の仕組みが取られるため、特定期間の給与が1千万円以下なら、届出書の提出をする必要はないということ
すなわち、特定期間の趣旨としては、
特定期間の課税売上高かつ給与の両方が1千万円超
の場合のみ、課税事業者とするという仕組みで作られていると解釈できるのです。困ったことに、条文や通達は選択制になっているので、上記のような結論になる訳ですが…
リスクを負わないよう当初申告で可否を判断するように注意が必要ですが、万一は趣旨で戦いましょう。