元国税調査官・税理士の松嶋です。
税務雑誌等から注目すべき税務記事を紹介します。
2021年11月01日 税のしるべより。
相続税の保険金の申告もれについて、重加算税が課税されるか問題になった事例が紹介されています。相続税の重加算税賦課の王道ですが、国税はいつもの通り、「税理士への隠蔽」をいう根拠を盾に、重加算税と指摘しています。
しかし、審判所は以下の判断で、重加算税の賦課決定を取り消しています。

国税不服審判所:令和3年3月23日裁決

銀行支店の担当者からの「本件保険契約を締結することにより、請求人が生命保険金を受領し、相続税の納付の心配が軽減される」旨の説明内容~にも照らすと、本件保険契約は、それによって、本件被相続人に相続が開始した際に~本件保険金を本件相続税の納付に充てることが可能となるものである~

請求人が、本件保険契約について、本件銀行支店の担当者から納税のための生命保険契約であり、全て税金を納めるためのものであるから、「○さん」の財産にはならないとの話があった旨述べていることからすれば~本件被相続人を指して「○さん」の財産ではない(から他の相続人の権利が及ばない)、と説明がされたのを、本件被相続人と同じ姓の請求人の財産にはならず、みなし相続財産として相続税の課税の対象となることはないと誤って理解してしまうなどした可能性も直ちに否定できない

~税務に関する知識や経験が豊富とはいえない請求人において、本件保険金は、本件K社保険金とは異なり、請求人の財産ではなく、相続税の課税の対象とならないものと誤解し、かかる誤解に基づいて本件保険金について本件税理士に伝えなかった可能性も否定できない

~請求人は~本件相続税に関する請求人に対する調査の初日に、本件保険金の入金事績が記録された本件請求人口座に係る通帳を本件調査担当職員に提示するとともに、当該入金事績に関する本件調査担当職員の質問に本件保険金の入金である旨回答しており、このように、殊更に本件保険金の入金の事実を本件調査担当職員に対して隠そうとはしていない請求人の態度は、上記誤解があった可能性を高める~

本件において請求人が本件保険金の存在について本件税理士に伝えなかったことをもって、請求人が当初から過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたとまではいえず、他に請求人に特段の行動があったと認めるべき事情も見当たらない~請求人が本件申告において本件保険金を申告しなかったことにつき、通則法第68条第1項に規定する隠蔽又は仮装の行為があったということはできない。

簡単に言えば、銀行員のいうことを誤解した結果税理士に伝えなかったのであり、税理士に対する隠蔽ではないため重加算税の対象にならないと認定した訳です。このような認定がなされた上で、評価されたのが以下の3点。

1 保険加入に(節税以外の納税という)理由があったこと
2 税務知識が乏しいと言えること
3 調査の初動の際から、隠す意図がうかがえないこと

これらは大いに参考になる点で、私たちも重加算税の賦課がなされそうな場合には、1をきちんと主張するとともに、3のような対応を心掛けたいところです。もちろん、3は質問検査権の対象になる範囲で、ということになるでしょうが。
なお、銀行ほど記録を残す組織はありませんので、エビデンスが残り、それを基に不利な課税処分を受けることが多々あります。一方で、本件のように説明内容が残っていたために、有利に働くこともある訳ですから、銀行との折衝には注意したいですね。