元国税調査官・税理士の松嶋です。
本年もよろしくお願いいたします。
税務雑誌等から注目すべき税務記事を紹介します。
今回は2021年10月18日 税のしるべ より。
無予告調査の要件(調査の相手方である納税義務者による違法または不当な行為を容易にし、正確な課税標準等または税額の把握を困難にするおそれや調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認める場合(通法74の10))について争われた事例があるようです。無予告調査の理由は開示しないのが原則ですし、こんなの税務署の裁量でどうにでもなるので意味がないと思っていますので、なかなか面白い判例です。
更に面白いのは、地裁がまじめに、「代表者の年収を超える額の資金が複数年にわたり継続して同社代表者から同社に流入しているのは資金の流れとして一般的に不自然」といった事情を考慮している点。こういうことがあると、代表者の個人口座に売上金をプールし、そして除外した売上を代表者借入金で還流できるから、無予告調査をしないと調査がうまくできない、と言いたいようです。
しかし、それは戯言でしょう。個人口座を特定できている以上は、銀行調査で実態解明できるので、資料を破棄されるような恐れは想定しがたいです。下記の通達としても、当てはまるとすれば(1)か(2)ですが、流石にそのようなリスクがあることを国税も立証できないはずです。
税務調査通達5-9(「違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれ」があると認める場合の例示)
法第74条の10に規定する「違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれ」があると認める場合とは、例えば、次の(1)から(5)までに掲げるような場合をいう。(1) 事前通知をすることにより、納税義務者において、法第128条第2号又は同条第3号に掲げる行為(注;虚偽答弁や帳簿の不提示等)を行うことを助長することが合理的に推認される場合。
(2) 事前通知をすることにより、納税義務者において、調査の実施を困難にすることを意図し逃亡することが合理的に推認される場合。
(3) 事前通知をすることにより、納税義務者において、調査に必要な帳簿書類その他の物件を破棄し、移動し、隠匿し、改ざんし、変造し、又は偽造することが合理的に推認される場合。
(4) 事前通知をすることにより、納税義務者において、過去の違法又は不当な行為の発見を困難にする目的で、質問検査等を行う時点において適正な記帳又は書類の適正な記載と保存を行っている状態を作出することが合理的に推認される場合。
(5) 事前通知をすることにより、納税義務者において、その使用人その他の従業者若しくは取引先又はその他の第三者に対し、上記(1)から(4)までに掲げる行為を行うよう、又は調査への協力を控えるよう要請する(強要し、買収し又は共謀することを含む。)ことが合理的に推認される場合。
この点、正しい法解釈としては、過去の最高裁判決を取り上げて、税務署の裁量行為と逃げれば問題ないはずです。しかし、(税務署を勝たせる前提で)「いちおう」無予告調査をせざるを得ない理由だけは解説しておこう、という判断でしょうか。
我々としては、この判決を前提に、無予告調査の理由を説明するべき、といった交渉もできるかもしれません。「いちおう」無予告調査の理由を、裁判所は審理していますから。