元国税調査官・税理士の松嶋です。
税務雑誌等から注目すべき税務記事を紹介します。
今回は2021年11月05日 税のしるべより。
実務でよく問題になる株価評価につき、株の譲渡対価が時価に満たないとして課税された事例が紹介されています。簡単に事実関係をまとめますと、

  1. A社が買いたい会社I社がある
  2. I社のホールディングカンパニーであるH社のオーナーと相談し、別会社C社をオーナーに作ってもらう
  3. C社が12億でI社株式をオーナーから買う
  4. A社が株式交換でC社を子会社化、H社のオーナーは株式交換の対価としてA社株式を取得。時価は13億。
  5. I社は後日、C社を吸収合併する
  6. I社に対し、I社株式の受贈益課税(5の吸収合併により、C社の納税義務を引き継いだためと考えられる)

というもの。国税は問題になるI社株式の時価を12億ではなく25億と評価。これらの取引を一体で見た上で、H社のオーナーには現金とA社株式の二つが交付されており、それが実質C社株式の時価、と認定しています。
本事例ですが東京地裁では国税が勝訴しています。記事によると、以下の最高裁判決を引用しているようです。

最高裁平成7年12月19日判決(Z214-7633)

資産の低額譲渡が行われた場合には、譲渡時における当該資産の適正な価額をもつて法人税法22条2項にいう資産の譲渡に係る収益の額に当たると解するのが相当である。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。そして、原審の適法に確定した事実関係の下においては、本件株式の時価として原審が認定した額とその実際の譲渡対価の額との差額に相当する金額が益金に算入されるべきであるとした原審の判断も、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はない。論旨は、違憲をいう点を含め、独自の見解に立つて原判決の法令違背をいうものであつて、採用することができない。
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時価がいくらになるか、その認定は非常に多くの質問が寄せられますが、時価について考えるべきは、国税は評価が出来ないということです。評価ができませんので、時価の問題が生じるのはそれほど多くはありません。
その一方で、課税される場合には、評価が出来ないのでなんらかの明快な数字を時価と認定する傾向があります。本件では、不要なC社を作っていることは明快で、かつA社が欲しいのはI社であってC社ではありません。こういうわかりやすい状況だと足し算で時価が出せるので国税は楽。
如何にぼやかすかが時価の対策。
なお、合併や株式交換を絡ませていますので、組織再編成の行為計算否認のリスクも本件にはありますが、行為計算否認よりも、本件のように時価が明確なケースは、それで受贈益や寄附金課税する方がはるかに楽です。かなり強引な再編をやっているので、行為計算否認の対策は弁護士等もやっていたのでしょうが、足元を固めておく必要があったと思われます。