元国税調査官・税理士の松嶋です。
税務雑誌等から注目すべき税務記事を紹介します。
今回はT&A master901からです。
このロジックは正確に理解しておかないと間違います。
所得課税と除斥期間の大前提の話について理解しておくべき取扱いです。
以下の前提で、取得価額は特例の適用をした上で計算すべきなのか、若しくは適用しないで計算すべきなのか、という争い。
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・ 買換特例を使って当初申告を行う。当然ながら、取得費の引継ぎになる。
・ しかし、実際のところは買換特例の要件を満たさないことが後日判明した。ただし、修正申告等はしていない。おそらく、除斥期間を経過したためと解される。
・ その後、買換特例の対象として申告をした買換取得資産を他に売却する。
・ 納税者は買換特例の対象にそもそもならないので、取得費の引継ぎではなく、通常の取得費の計算を行った。
この場合、その買換取得資産の取得費は、「特例を受けた」として計算した金額になります。東京地裁も令和3年9月17日に、納税者の請求を棄却した上で、「課税の繰延べという効果を享受した者は、これに係る修正申告書の提出又は更正処分がされない限り、取得価額の引継ぎを行うべき」と判示したようです。
しかし、そもそも正しい税務処理においては、取得価額の引継ぎなど認められないはずなのに、なぜこのような処理になるのか疑問も残るかもしれません。これは、所得課税は現時点判断説、という考え方で除斥期間経過の所得をとらえるからです。
現時点判断説は、除斥期間が経過した場合、その効果は除斥期間が経過した年度の所得金額を変更できないとするに止まるという考え方です。このため、除斥期間が経過したその経過に併せ、本件のように引き継ぐべき取得価額などは変化することにはならないという結論になります。
結果として、修正申告等がないまま除斥期間を過ぎると、要件に関係なくその特例を受けたとして取得費を計算するため、本当はダメなのに、取得価額の繰延があるとして譲渡所得を計算することになります。
非常に面倒な話なのですが、結論だけシンプルにまとめますと、買換特例などの所得価額の引継ぎ規定の適用を受けた場合、修正申告や更正処分がない限り、特例による取得費の引継ぎは効力を有するという話になります。誤りがないように注意したいところです。