『オール・オア・ナッシングではなく、テレワークでも事務所でも働けること、選択できる環境を用意することが必要です』
一般社団法人IT顧問化協会/理事・石川浩司氏
過去のファイブスターマガジンから、今読んでも税理士の先生方にとってお役に立つものを定期的にシェアしています。
今回はファイブスターマガジン(2020年5月号)「士業事務所のBCPとテレワーク」より抜粋しました。
コロナ以前は、もともと働いてたスタッフが産休に入ったりした時の
代替手段として使われることが多かった「テレワーク」。
コロナをきっかけに、半ば強制的にテレワークが浸透することとなった事務所もあるでしょう。
そして時間が遡らないのと同様、働き方の選択肢としてのテレワークの存在は、
コロナが収まった後も広まっていくはずです。
ご紹介するインタビュー記事で話題にあがった事務所は
テレワークを浸透させることとなったきっかけが、コロナではなく「スタッフの一斉退職」でした。
石川氏によるとテレワークは、仕組みだけならノートパソコンとネット環境があればできるが、
活用するためには、所内業務を始めとする事前のチューニングが必要と説きます。
ペーパーレス化、スタッフ同士のコミュニケーションのチャット化、セキュリティ問題、就業規則整備…
色々な準備が必要な反面、クラウドサービスの発展などもあり、そのハードルは下がっているそう。
テレワーク化を真剣に考える税理士の方にはとても有益な記事となっています!!
―新型コロナ感染拡大の影響で、士業事務所におけるテレワークの導入状況は変わってきていますか?
会計事務所で言えば、感染拡大の広がりが確定申告の時期と重なっていましたので、
そうしたことを言っていられない状況だったと思います。
税理士法が規定するところでは、税務申告書の作成をテレワークで行うことはできません。
ですから、通常通りの勤務形態で運営している事務所が多くなっていると思います。
―コロナ以前にテレワークを導入していた事務所では、どのような運用をされているケースが多いのでしょうか?
テレワークで行える業務は、記帳から決算書の作成まで。税務申告書の作成はしない。
こうしたイメージで運用されている事務所が多いと思います。
今後、テレワーク運用のガイドラインが明確に打ち出されるようなことがあれば、
テレワークを行う事務所も増えてくるのではないかと思います。
―士業事務所でどこまでテレワークが許されるのか。そうしたものが明確になってくると、業務フローも変わってきますね。
そうした意味で言えば、コロナの感染拡大が士業の働き方が変わるきっかけになるかもしれません。
仕組みだけで言えば、テレワークはノートパソコンとネット環境があればできます。
そうではありますが、今すぐに、どの事務所でも、できるわけではないというのが実情です。
就業規則や給与体系などを整備する必要があるほかにも、そもそも業務を行う環境をクラウド環境
に切り替えてある必要があります。所内のキャビネットの中にある資料は、自宅から取り出すことができないからです。
―業法などへの対応以前に、所内のインフラやツールを整備しておかなければならないということですね。
はい。まずペーパーレス環境は必須の項目です。
ペーパーレス環境になっていても、データファイルが事務所内のサーバーに置いてあるケースが多く、
それでは所外からデータを利用することができません。
その次にチャットなどのコミュニケーションツールが導入されていることも必要です。
さらに、そうしたものを使ったスタッフ間のコミュニケーション方法が確立されている必要もあります。
当然、セキュリティの問題もあります。
所外から参照できるものとそうすべきではないデータの区分を明確にして、管理しておくべきです。
さらに業務ソフトが、クラウドに対応している必要もあります。
これらを事務所として整備し、いつでもテレワークに切り替えられる仕組みを用意しておかなければ、環境は整いません。
とは言え現在は、以前のように大きなコストがかかるわけではなく、
いくつかのクラウドサービスを使うだけで、こうした環境を整えることができます。ですから、ハードルは下がっていると思います。
―コロナ以前のテレワークの重要な議題は、人手不足への対応でした。
働き方改革を私なりに定義すると、自由な働き方ができる環境や社風を実現すること、
そしてそれを支えるためのシステム作りだと考えています。
つまり、オール・オア・ナッシングではなく、テレワークでも事務所でも働けること、
選択できる環境を用意することが必要です。
そのときに重要なことは、テレワークを選択した人を否定しない企業文化を作り出すことです。
―そうした環境を実現している士業事務所はありますか?
少ないですね。
そもそもテレワーク自体、もともと働いていたスタッフが産休などの事情でやむなく退職するというような際に、
継続して働いていただくための手段として利用されているケースが多くなっています。
また、テレワークを行っている事務所は、そもそも支店があり、
遠隔で協働して業務を行うインフラや経験のある、比較的大きな事務所が多くなっています。
小さな個人事務所には、遠隔地のスタッフと仕事を行うインフラも必要もありません。
出典:FIVE STAR MAGAZINE 第56号 『十数名の職員が一斉退職も、テレワークを活用して「職員ゼロ」でリカバリー!』