【税務調査交渉及び見落としがちな税務判断】減価償却と更正の請求

元国税調査官・税理士の松嶋です。
今回のテーマは「減価償却と更正の請求」です。

個人と法人の税務処理の違いとして、減価償却があります。周知の通り、個人は強制償却、法人は任意償却となります。

強制償却と任意償却という違いがありますので、計算の適用もれに関しては個人は更正の請求ができる反面、法人については更正の請求ができないという違いがあります。

以上を踏まえ、疑義が生じるのは、

  1. 一括償却資産
  2. 10万円未満の少額減価償却資産
  3. 青色申告書を提出する中小企業者の少額減価償却資産

これらに関する更正の請求です。

個人については、強制償却である以上、これらも更正の請求で適用できるのでは、といった見方もありますが、法令によってそれぞれ異なる処理となります。

まず、一括償却資産について。
これについては、以下の通り、申告要件があり(所令139(2)・(3))、確定申告書に一括償却対象額に係る書類の添付などが要請されています。

このため、当初申告で適用を受けていない場合には、これらの書類の添付もないはずですので、更正の請求で適用することはできないと考えられます。

所得税法施行令139条(少額の減価償却資産の取得価額の必要経費算入)

2 ~一括償却資産を業務の用に供した日の属する年分の確定申告書に一括償却対象額を記載した書類を添付し、かつ、その計算に関する書類を保存している場合に限り、適用する。
3 居住者は、その年において一括償却対象額につき必要経費に算入した金額がある場合には、その年分の確定申告書に、第一項の規定により必要経費に算入される金額の計算に関する明細書を添付しなければならない。

ただし、ここでいう確定申告書は、期限後申告書も含まれますので(所法2(1)三十七、所令1)、期限後申告で適用を受けることは可能です。

次に、10万円未満の少額減価償却資産については、「第四款(減価償却資産の償却)の規定にかかわらず、その取得価額に相当する金額を~必要経費に算入する」(所令138)と
されています。

このため、確定申告で適用を受けていない場合には、法令の適用誤りがあることから、更正の請求の対象になると考えられます。

所得税法施行令138条(少額の減価償却資産の取得価額の必要経費算入)

居住者が~業務の用に供した減価償却資産~で~使用可能期間が一年未満であるもの又は取得価額~が十万円未満であるものについては、第四款(減価償却資産の償却)の規定にかかわらず、その取得価額に相当する金額を、その者のその業務の用に供した年分の~必要経費に算入する。

法人税については、10万円未満の少額減価償却資産については、損金経理額が損金になるとされていますので(法令133)、取得価額全額を損金経理していないのであれば、更正の請求の対象にはなりません。

この点、法人税と所得税で処理が違いますから、注意が必要です。

最後に、青色申告書を提出する中小企業者の少額減価償却資産ですが、特例措置であることからも分かる通り、確定申告における適用もれは、更正の請求にはならないと考えられます。

実際、一括償却資産と同様に、当初申告要件が付されています。

租税特別措置法28条の2(中小事業者の少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の特例)3項

~(注:青色申告書を提出する中小企業者の少額減価償却資産の規定は)確定申告書に少額減価償却資産の取得価額に関する明細書の添付がある場合に限り、適用する。

最後に、中古資産の耐用年数については、下記の通り供用年度において算定する必要があります。このため、適用がもれていた場合、後日更正の請求で簡便法を適用することはできないと解されます。

耐用年数通達1-5-1(中古資産の耐用年数の見積法及び簡便法)

中古資産についての省令第3条第1項第1号に規定する方法(以下1-7-2までにおいて「見積法」という。)又は同項第2号に規定する方法(以下1-5-7までにおいて「簡便法」という。)による耐用年数の算定は、その事業の用に供した事業年度においてすることができるのであるから当該事業年度においてその算定をしなかったときは、その後の事業年度においてはその算定をすることができないことに留意する~

一方で、簡便法は使用可能期間の見積もりができない場合に適用ができます。このため、使用可能期間の見積もりが妥当ではない場合には、簡便法で後日計算することが可能とされています。

平成29年5月17日裁決(F0-1-736)

耐用年数省令第3条第1項第1号の見積法による使用可能期間の年数を算定した場合、見積りに合理性がないと認められるときには、合理的な方法によりその算定がなされるべきである。
そして、同項第2号は、前号の年数を見積もることが困難な場合には、簡便法によることができる旨規定しているところ、見積法は、中古資産の使用状況、取得時までの損耗の度合い、材質等の具体的なデータから使用可能年数を見積もる方法であり、かなり技術的な資料が必要となるため、同号に規定する「前号の年数を見積もることが困難なもの」とは、その見積りのために必要な資料がないため技術者等が積極的に特別な調査をしなければならないこと又は耐用年数の見積りに多額の費用を要すると認められることにより使用可能期間の年数を見積もることが困難な減価償却資産をいうと解され、その旨を定めた耐用年数の適用等に関する取扱通達1-5-4の取扱いは当審判所においても相当と認められる。

5 請求人は、建物の使用可能期間の年数を見積もる上で、その見積りに必要な資料がないことから、不動産会社の社長から、本件建物の使用可能期間の年数を1、2年と聞き、これにより建物の耐用年数を2年と見積もった。
しかしながら、当該社長は、建物の使用可能期間の年数について、不動産業者としての経験則から、建物の本体だけでなく附帯設備を含めて、いずれも壊れる箇所がないという前提で、テナントとして使用可能な期間を判断したにすぎない。

6 中古資産は、その状態が中古資産ごとに千差万別であり、何らかの資料等がなければ、使用可能期間の年数を見積もることが困難な減価償却資産であるところ、本件建物の使用可能期間の年数の見積りに当たり、その年数を見積もるために必要な資料はなく、建物の取得時までの損耗の度合いなどについて具体的な資料を基に見積もられた事実も認められず、また、建物の取得時までの損耗の度合いなどについて技術者等が調査した事実も認められないことからすれば、請求人の見積方法は合理的なものではなく、本件建物は、耐用年数省令第3条第1項第2号に規定する「前号の年数を見積もることが困難なもの」に該当するから、本件建物の耐用年数は、簡便法で算定することとなる。


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