中小企業を中心にした企業会計や経営コンサルティング、相続税の相談業務などをおこなう税理士法人伊勢山会計。同法人の代表でありながら、過去2,000件以上の相談対応実績を持ち、今なお現場の最前線で税務相談に税理士として携わり続ける杉本敦永様に、税務に関する事業の取り組みや、相続に関する基礎的な知識、近年のトレンドなどについてお聞きしました。
「税理士とは、人の感情や人間関係を扱う仕事」
税理士法人伊勢山会計は、どのような法人でしょうか。
税理士法人伊勢山会計は、経理や決算、相続税などをはじめとした各種税務の申告などを基本業務とする一般的な税理士法人です。個人税理士事務所が大きくなったような形態ですので、支店開設や他業務との提携といった横展開はしておらず、もっぱら会計を主軸にした、会計職人の会社だと考えています。
これまでの相続に関するご依頼の中で、特に印象にのこっているものはありますか?
財産の価値をどう算出したらいいか難しいご相談がありました。その方は、1960年代に作られたレアなスーパーカー「トヨタ2000GT」をお持ちでした。
耐用年数から言えば残存価額はすでに0円になっているわけですが、前年には海外のオークションで100万ドル、日本円で言えば1億1,000万円で落札されたような非常に価値のあるものです。ガレージに入っていましたから状態も良い。いわゆる骨董品に似たような価値を持っているわけですね。
価格を調べようと一括見積りサイトなどでも見比べてみましたが、私の所有物ではありませんから下取りに出すわけにもいきません。また、私のお客様でディーラーをしている方にも聞いてみても、「エンジンをばらしてみないことには価値はわからない」との回答でした。残存価額からの評価も現物の鑑定もできず、非常に困りましたね。
結局どうしたかと言うと、「妥当な評価額と一緒にトヨタ2000GTであることをはっきりと書き添える」とすることにしました。監督官に異議があれば申し立てがあるはずですからね。結果的に、申請は無事受け入れられることとなりました。
このケースはこれで解決できたわけですが、このような「時価」の査定が絡むご相談というのは非常に困難です。どのように鑑定をするのがよいかは、実はケースバイケースだからですね。
現在こういったケースは珍しいですが、今後、価値の算出が難しい今回のようなケースは増えてくると考えられます。今まで財産といえば、三大財産である「預金」「土地」「有価証券」あたりに限られていました。ですが今は、投資商品も増えましたし、財産の形態も買い方も多様化してます。画一的な基準では評価できない財産が、これからは多く相続の対象となってくるのではないかと考えています。
相続に関して多いのはどのような内容のご相談ですか?また、相続に向けて準備しておけることはありますか?
まず相談者として多いのは、財産を残す側である被相続人と、受ける側である相続人で分けると相続人の方からですね。年代で言うと50〜60代の方です。
被相続人からのご相談というのは、よっぽど意識の高い方に限られる印象ですね。「まだまだ俺には関係のない話だ」と考えられている方が多いですし、本人から相談がある場合は、人間関係や事態がそこまで複雑ではないことが多いのではないでしょうか。
ご対応が難しいのは、やはり相続人からの「親の相続について考える必要が出てきたがどう対策すればよいか」といったご相談です。子から親へはなかなか言いにくいものです。「親父、相続はどうするんだ」「お父さん、金融資産いくらあるの?」とは、なかなか聞けないですよね。しかし、それを明らかにできないことには相続対策は進められません。
私たちも税理士の立場から親御さんに、「息子さんからは言いづらいけど大切な話ですよ」「遺言書を書いておかなかったことで大変なトラブルになったケースがありましたよ」といったことをお伝えはするのですが、現実には、それで親御さんの行動が実現した例はほとんどないというのが実情ですね。やはり「自分には関係がない」という考えが一般的ですし、遺言書を残すといった文化はまだなかなか根付いていないと感じます。
引用元:税理士法人伊勢山会計
では、相続人側は事前にどんなことを準備しておけるかというと、被相続人との良い関係性を作って風通しをよくしておくことが結局は一番大切でしょう。簡単にはいかないことは承知していますが、ここをやらなければ話がスタートしません。相続人側が一方的に「親父、書類用意したぞ。ここにサインしてくれ」と言ったところで、いくら書類上は問題なかったとしても、受け入れてもらえるわけがありませんからね。スムーズに話を進めるためには、人の感情や人間関係を良くすることが大前提です。
また、「感情や人間関係に配慮する」というのは、当然私たち税理士にとっても同じことが言えます。相続のご相談を対応するというのは、理屈ではなく人間関係を扱う仕事です。感情一つ、言葉一つ間違えるだけで大ごとになってしまうんです。
遺産分割に関する相談の中で、「最近の遺産分割に見られる傾向はあるんですか?」といった質問が相続人の方から挙がることがよくあります。「答え」を伝えるならば「法律上、共同分割です。等分に分割することが原則ですよ」と言えば良いでしょう。ですが、税理士の回答としては、ホメられたものではないと思います。
「相続の形は100件あったら100通りです。そのお宅の人間関係ややり方に合った方法がそれぞれあって、模範的な答えやトレンド、傾向などというのはないんですよ」と伝えるべきでしょう。質問されている方は、そのまま分割することにどこか不満や納得できないところがあって質問されているのですから、その感情に配慮してお答えしてあげることが必要だからです。
感情を無視して「分割すると法律で決まっていますよ」と伝えただけでは納得いかない遺恨を残し、後々大きな揉めごとにつながってしまうこともあります。
税理士の「腕」は何で決まるのか。選び方のポイント
「税理士の仕事がゆくゆくはAIによって代替される」という論調がありますが、どうお考えでしょうか。
実際に税理士業務が激減した外国の例もあるように、「作業」の部分はAIに代替されていくと思います。電子申告などは、領収書や源泉徴収票につけたバーコードをピピッっと読み込むだけで自動的に処理できるようになる日も遠くないと思われます。
一方で、さきほどのような人間関係に関する部分はこの先も人間が担うのではないでしょうか。
経済状況や人間関係という、非常に繊細な部分に足を踏み入れるには、直接顔を見合わせたり雑談したりと、時間をかけて信頼関係を得ることが必要です。「はじめまして。さっそくあなたに遺書を書いてもらいたくてですね」なんていきなり言ったって怒られるだけに決まっています。
その一方で、申告期限などもある中、何度も会えるわけではありません。時間の限られた中で信頼していただき必要な情報を聞き出すというのは、本当にコミュニケーション能力が高くないとできない仕事だと思います。人間関係を前提としてそういった仕事は、今後も人間にしかできない仕事として残るだろうと思います。
自分に合った税理士を選ぶポイントについて教えてください。
まずは率直に自分の悩みを打ち明けてみると良いでしょう。「父親に遺言書を書いてもらいたいんだけどどうしたらいいですか」といったことですね。「そんなこと知らんがな。俺の仕事は税金の計算だよ」という先生もいれば、「そうですか」と親身になってくれる先生もいます。答えを教えてくれる、もしくはすぐには答えられないことでも丁寧に答えを引き出そうとしてくれるのが良い税理士さんだろうと思います。
また、場数を踏んでいるということも重要です。所属している事務所のネームバリューよりも、その方自身がしっかりと経験を持っていることの方が重要ではないでしょうか。相続の相談実績件数などをしっかりと示しているかを一つの参考にされるとよいかと思います。
相続税の税務調査に関してお聞きします。どのような場合に調査が入るのでしょうか?
まず、税理士事務所のホームページなどに「当社で手がければ相続税の税務調査は入りません」などと書かれていることがありますが、あれはちょっと大げさな言い方じゃないかなと思います。なぜなら、税理士自身の努力だけで調査を回避することは事実上ほとんど不可能だからです。
相続税の税務調査でまず問題になるのは、財産の申告が抜け漏れているケースです。実際に、「財産はこれだけだ」とおっしゃっていたはずがお孫さん名義の口座に預金を移していたケースや、貸金庫の中に4000万円入ってたというケースが過去にありました。税務署では職権を使ってそれらを簡単に調査できますが、私たち民間は、「財産はこれしかありません」と言われれば、それ以上は調べようがありません。
相続税を正しく申告するにはご遺族の理解と積極的な協力が不可欠であり、税理士側の努力だけでは申告漏れを防げない部分があります。それにも関わらず、「うちでやれば税務調査が入らない」と言うのはおかしいですよね。
では、税務調査が入らないための対策として何ができるのかと言えば、申告漏れがないように財産を正確に把握することです。生前贈与や預金の移動、家族名義預金の存在などはないか。あるいは、本人が財産ではないと勘違いしている動産が存在しないか。親族の手前、隠したがっているような財産はないか。ときには「過去このようなご家庭に税務調査が入ったことがありますよ」などと具体的なケースをお話しして、危機感を持っていただくこともあります。
必要な情報をいかにして聞き出せるかが、税理士の腕が問われるところと言えるでしょう。
相続に関する近年の動向は。新たな制度や多様化する財産について
配偶者居住権とはどのような仕組みでしょうか。また、実際に活用したいという相談事例は増えていますか?
配偶者居住権とは、簡単に言うと、残された配偶者に対して手厚い保護をするための権利だと思ってください。仮に不仲で意地悪な子どもに家を取られたとしても、立場を守れるというような仕組みです。
キーワードは「意地悪な子ども」であるということ。仮に父親が亡くなったとした場合、良好な関係の親子関係であれば、そのまま母が相続して住み続けるというのが自然でしょう。配偶者であれば遺産相続における優遇も大きいですからね。ですが、「将来のために俺が取っておきたいんだよ」などと、自分の名義にしたいと子どもが言い出すケースがあります。仮に家が子どものものとなってしまえば、母親は家を追い出され、住む場所に困ってしまいます。
それを防ぐのが配偶者居住権です。家の財産的価値とは切り分けて、家に住み続ける権利を配偶者に設定しておけば、配偶者は住居を失わずに済むようになるのです。
このように大きなメリットを受けられる可能性のある配偶者居住権ですが、実際にはまだまだ使われてはいませんし、当社でも相談事例はまだありません。配偶者の生活を守ることに役立つだけでなく、活用の仕方によっては相続時の節税になりえることはたしかなのですが、制度の存在自体が一般的に認知されていませんし、裏技的な見られ方をされているというのが現状ですね。
税理士としては、まだ一般的ではない仕組みは積極的には使いづらいところがあります。うまくいって数千万円の現金が戻ってくるなら相続人にも成果を感じてもらいやすいですが、税金はいずれにしても財布から出て行くお金で、それが減るだけですから実感も湧きにくく、感謝もされづらいものです。また仮に後になって税務署から「やっぱり認められません。追加で支払ってください」ということになれば、本来の支払額とは変わらないはずにもかかわらず、相続人からは批判されるばかりです。
認知度や実務上の取り扱い、報酬や評価の面で整っていない面も多く、当たり前に活用されるといったところまでは広まっていないのが現状だと思います。
相続税と贈与税の一体課税について、今後どうなっていくと思いますか?
近々の動向は予想がつきませんが、いずれ一体化されるというのは間違いないでしょう。生前贈与は富裕層の相続税対策という側面が高く、日本の大多数の人には関係がないことだからです。政治家にとって、金持ちの5票とそのほかの95票を比べたら、どちらに眼を向けた方が効果的かは一目瞭然でしょう。さらに、すでに会計検査院が方針を打ち出している以上、いずれは一体課税の方向に進んでいくと思います。
ただ、一体化の見送りが続いたままであるのは、生活費等の扶助と相続対策としての生前贈与との間の線引きが難しいなど、色々と事情が絡んでいるからだと思います。
一体課税に向けて税制を改正する際にはそういった問題にも勘案する必要がありますので、慎重な検討が続いているのでしょう。今後も総合的な見地から議論が進められていくのではないかと思います。
暗号資産のように、これまでにはなかった形の財産が登場してきていると思います。相談事例や対応に向けた動きはありますか?
たとえばビットコインを持って亡くなった方の相続相談というのは、今はまだかなり珍しいでしょうし、我々のような町の税理士が対応するという状況はまだまだ先の話でしょうが、たしかに新しい資産の相続は今後増えてくるでしょうね。
これまで財産と言えば、上場株と不動産ぐらいだったものが、今では、みなさん当たり前のように投資信託、ファンドなどを持ってます。銀行が「投資信託どうですか」とセールスするからですね。ある程度お金持ちで銀行との付き合いある人の多くがそういった財産を持っているように思います。
個人で投資する時代に入った令和の今、個人の方からETFがどうこうといった相談はいずれは増えてくるでしょうね。
そのほかに着目しているトピックはありますか。
▲お客様の「お悩み」を解決する伊勢山会計のスタッフ
これまで相続税の節税には不動産を使った方法がよくとられてきましたが、現在その状況が変わりつつあります。
以前から「相続税を抑えるには建物を買いなさい」ということがよく言われてきました。建物の評価額は、相続税評価額ではなく固定資産評価額という別の税法を使って安く算出できるからです。また、株などの投資は自己資金でやらなければならないのに対して、不動産はローンを組む、つまり借金で投資することができます。郊外にずいぶんと立派なマンションが建っていたりすることがありますが、これは不動産特有のメリットを使った節税のためなんですね。
これまで国は、不動産をつかった相続税の節税方法については、容認してきた例が多いと思います。ですが今年4月、不動産をつかって節税した申告者に対して、これを認めないとする判決を、最高裁が出したんですね。「あまり節度のない節税はだめだよ」ということでしょう。これによって状況が変わっていくことになりました。
今後国は、不動産での節税を完全否定するわけではなく、何かしらのガイドラインなどを出すのだろうと思います。不動産投資を完全に否定すれば、今度は不動産投資が下火になって業界が死んでしまいますからね。多分いまは業界からのネゴシエーションなども進められているのだと思いますので、どのようなガイドラインがいつごろ策定されるか、今後も注視していきたいですね。
最後に、今後の展望について教えてください。
個人や中小企業の確定申告や決算には反復継続性があり、顧客との接点も緊密に持てるため、安定的に依頼をいただけるのですが、そのような特質がない相続税については自分たちで需要を開拓してご依頼ご相談案件を見つけてくるしかありません。安定してご依頼いただくという点でまだ課題がありますので、そこを強化していきたいというところが、今後の課題です。
営業方法の工夫ももちろんですが、他の職業専門家の方々と提携したり税理士仲間で切磋琢磨したりしながら、ご依頼ご相談を見つけていける体制を工夫していきたいですね。
先日、霊感の強い方に視てもらったところ、「78歳まで生きられる」と言われました。やったぜあと20年は働けるなと意を強くしました。これからもノンビリぼちぼちとガンバっていきますので、生暖かい目で見守ってください。
(※文中の意見・見解部分については杉本敦永の私見であり、政府や税理士会、他の税理士や専門家等の公式見解ではないことをお断り申し上げます)
杉本敦永 様
税理士法人 伊勢山会計
■企業プロフィール
社名:税理士法人 伊勢山会計
名古屋市中区古渡町18-9 TSUNOKYU名古屋ビル5階
TEL:052-339-5560
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ご家族の相続は突然起こり、何から手をつけていいか分からない方がほとんどです。相続税についてはとくに複雑で、どう進めればいいのか? 税務署に目をつけられてしまうのか? 疑問や不安が山ほど出てくると思います。
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